敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
そおっと店内を見渡してみると、客席は満席になっていた。
ありがたいことだ。
こんなに心待ちにしてくださる方がいるんだし、心を込めて弾かないと。
そう決意を新たにして、店内に足を踏み入れた。


ざわざわしていた客席は、私の姿に気づいた人が徐々に増え、静まり返っていく。


ーリスト 〈ため息〉ー


打ち寄せては返す波のような調べは、複雑な心模様を描いているよう。
いろいろな感情がひしめき合う……まるで、自分の心中そのものだ。
今日の〈ため息〉は、お客様にはどんなふうに届いているのだろう。



ここでの演奏は、クラッシックから始めるようにしている。
ジャズやボサノバも好きだけど、やっぱり私の根幹はクラッシックだから。

いつも時間をオーバーできるぐらいの曲数を用意していき、その場の雰囲気や自分の気分で選曲している。
〈ため息〉は、まさしく今の自分の心境だった。

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