敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】



月曜日、いつも通り仕事が始まった。
私はバーで社長と遭遇したのもあって、何か言われるのではと内心焦っていた。
副業ではないのだから、びくびくする必要はないんだけど、、


私の心配に反して、その週は社長に呼び出されるどころか、社内で見かけることもなく、平穏に過ぎていった。


やっぱり気づかれてはいなかったかな。
よかった。


そして金曜日。
この日もやどり木に来た。

真っ赤なドレスを着てピアノに向かった。



ーショパン 〈ノクターン 第2番〉ー



言うまでもない名曲。
それだけに、弾く時はいつもより少し緊張が増す。

日本語にすれば〝夜想曲〟。
ここにいるお客様は、今宵どんな想いで聞いてくださっているのだろう。
素敵な夜になりますようにと、願いを込めて演奏した。



演奏を終えて、静かに席を立った。
まさかね……という思いから、思わず顔を上げると……



いた……


先週と同じように、須藤社長が1人で座っていて、こちらを見つめていた。

まただ……
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