敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
動揺しつつなんとか控室に戻ると、柿本さんが来た。

「神崎さん、お疲れ様です。お気づきかもしれませんが……須藤社長がまたいらっしゃってましたよ」

「そうみたいですね。会社ではなにも言われなかったので、自社の社員だとは気づいていないみたいですが……」

「先ほど確認したら、須藤さんは 予約を受け付けている1ヶ月先まで席を取っていらっしゃるみたいですよ」

「えっ?」

「あなたの演奏を楽しみにしていらっしゃるみたいですね」

「はあ……」

「名刺も、来られるたびに置いていかれてます。無関係な方ではないので、一度お話しされてもいいかもしれないですよ」

「いえ、社長は雲の上の人過ぎて……普段から接点もないですし、正体に気づかれてないのなら、このままでいたいです」

「そうですか。とりあえず、いただいた名刺はファイルに入れておきますね」

「はい。
そろそろ失礼します。また明日、お邪魔します」

「お疲れ様です。気をつけてお帰りください」



その日の帰り道は社長のことが頭を離れなかった。
社長は1ヶ月先まで席を押さえているという。
ということは、明日もいらっしゃるんだ……
普段の私と面識があるんだと思うと、少し緊張してしまうなあ。
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