敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】


土曜日。



ードビュッシー 〈アラベスク 1番〉ー


アラベスク模様のように絡み合う旋律が美しい一曲。
この曲は母のお気に入りで、幼い頃から何度も聴いてきた。

プロのピアニストを、目指していた頃を思い出すと、まだ胸が苦しくなってしまう。
でも、羽山先生の元で再びピアノを始め、やどり木で演奏をさせていただくようになって、その苦しみとはまた別の次元でピアノを弾けるようになった気がする。
それは全て、聴いてくださる方のためにという想いがあるからだ。

ただ他の逃げ道を見つけたに過ぎないのかもしれない。

私の生きている場所は、まるでアラベスク模様のようだ。


そういえば、就職して一人暮らしを始めてから、あまり実家に顔を出していなかった。
姉が早くに結婚したこともあって、ますます疎遠になっていた。

あの事故以来、私は未だに逃げているだけなのかもしれない……
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