敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
田中さんは、そんな僕の様子に気付いたようだ。


「ははは。本当に綺麗な人だろう」

「そうですね」


どことなく儚さを感じさせる、美しい女性だった。

が、一度演奏が始まると印象が全く変わった。
全身から感情を絞り出すようにして紡がれた音色は、力強くもあり儚くもある。
つかみどころのない、どこかすり抜けていくような感覚だ。
素晴らしい演奏なのはピアノをかじったぐらいの僕にもわかる。

でも、なんだろう……このどこか見え隠れする哀しみは……

この時彼女の演奏に、完全に心を持っていかれた。



「須藤君、どうだったかね?」

一瞬、何も答えられなかった。


「あはは。その様子だと、彼女の演奏にやられてしまったようだね」

「はい。素晴らしいなんて言葉では表せないぐらいです」

「彼女自身も、とても魅力的だしね」

「はい」

「おぉ。彼女のこと相当気に入ったようだね。
君の女性関係の話なんて、これまで一切なかったから、なんだか嬉しいよ」

「田中さん、からかわないでくださいよ」

「ははは、でも事実だろ?
でもなあ……彼女は……」


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