敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
「何かあるんですか?」

「それがなあ、素性が一切明かされないんだ。名前すらわからない。
店員に聞いても、何も教えられないの一点張りなんだよ。もちろん、彼女との取次もしてもらえない。
やれることと言ったら、ただ名刺をおいていくことぐらいだ」

「そうなんですか……」

「私の知り合いの社長とその息子も、彼女をいたく気に入ってね、店のオーナーを通してお見合いを申し入れたけど、全く相手にされなかったようだ。
なかなか大きな会社で、いい話だっていうのにね」

「お見合い……
彼女は結婚されてないんですか?」

「それも、たぶんねとしか言えない。
興味あるかい?」

「……はい」

「やけに素直だね。
ここには、噂を聞きつけたプロの音楽家や音楽関係者も来るそうだよ。スカウトをしようと声をかけても、一度も応えないそうだ。
あれだけの演奏者なのにもったいない。
それに、専門家でも彼女の素性がわからないようだから、プロのピアニストとしては活動してないんだろうねえ」
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