敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
とはいえ、彼女の周りはなかなか守りがかたかった。
取次はしてもらえず、声をかけることすらできない。
プレゼントも受け取らないという。
ただ名刺を預けることぐらいしかできなかった。
彼女の演奏は毎回好評で、予約席も完売が続いているという。
ある日、彼女の演奏を聴きにバーを訪れると、店内のレイアウトが変更されていた。
おそらく、席数を増やすためだろう。
自分の座る席が、前より少しピアノに近づいていた。
そんな小さなことにすら喜びを感じていた。
演奏を終えた彼女が、僕の横を通り過ぎようとした。
その時、バランスを崩してよろけた彼女を、とっさに抱きとめた。
「すみませんでした」
先ほどまであれほど素晴らしい演奏をしていたというのに、嘘のように自信なさげな彼女にはっとした。
その姿に、なんとなく見覚えがあった。
そして、彼女のつけている香水も……
「神崎さん?」
彼女は驚いた表情になり、足早に去っていった。
神崎さんがつまずいた時も、同じように抱きとめた。
あの時のどこか自信なさげな様子が、ピアニストの彼女と重なる。
もしかして……
このピアニストは神崎さんではないか……
高揚する気持ちを抑えつつ、僕は月曜になるのを待った。
取次はしてもらえず、声をかけることすらできない。
プレゼントも受け取らないという。
ただ名刺を預けることぐらいしかできなかった。
彼女の演奏は毎回好評で、予約席も完売が続いているという。
ある日、彼女の演奏を聴きにバーを訪れると、店内のレイアウトが変更されていた。
おそらく、席数を増やすためだろう。
自分の座る席が、前より少しピアノに近づいていた。
そんな小さなことにすら喜びを感じていた。
演奏を終えた彼女が、僕の横を通り過ぎようとした。
その時、バランスを崩してよろけた彼女を、とっさに抱きとめた。
「すみませんでした」
先ほどまであれほど素晴らしい演奏をしていたというのに、嘘のように自信なさげな彼女にはっとした。
その姿に、なんとなく見覚えがあった。
そして、彼女のつけている香水も……
「神崎さん?」
彼女は驚いた表情になり、足早に去っていった。
神崎さんがつまずいた時も、同じように抱きとめた。
あの時のどこか自信なさげな様子が、ピアニストの彼女と重なる。
もしかして……
このピアニストは神崎さんではないか……
高揚する気持ちを抑えつつ、僕は月曜になるのを待った。