敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
金曜日の朝、朝食を食べながら恭介さんに言った。

「恭介さん、そう言えばやどり木のオーナーから聞きましたけど、席の予約をしてくださってるんですよね?」

「そうだよ。だから、今夜も聴きに行くよ」

「私は退勤後にそのままやどり木に行きます。演奏後にお席に行きますから、待っていてくださいね」





やどり木の控え室で、着替えを済ませた。
今日のドレスは、淡いピンク。

「華ちゃん、今日も素敵よ。頑張ってね!」

「はい。加織さん、ありがとうございます」

今日は、私の想いを恭介さんに伝えるために弾くと決めている。
すっと深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。

時間になって、店内へ足を踏み入れた。
恭介さんはいつもの席に一人で座り、私をじっと見つめているのが伝わってくる。



ーリスト 〈愛の夢 第3番〉ー


恭介さん、あなたに私の想いは伝わっていますか?


「はあ……このピアニストは、こんなふうにも弾けるのか」

「こんな艶のある音も出せるんだな。思わずため息が溢れるよ」



店内の囁きをよそに、ありったけの想いを込めて弾ききった。

たくさんの拍手を聞きながら恭介さんを見ると、優しく微笑んで頷いてくれた。
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