real face
「しかし、それでは私の償いが……」

「私たち家族が何不自由なく暮らしていけるのは、貴方が十分な貯えを残してくれているからです。そのことに関しては感謝してもしきれないし、有難いことだと思っています。でも、それ以上は望んでいません。こうやって会って話すだけでも、私にとっては苦痛でしかありません。どうか、察してください……」

もう、本当にこれ以上は勘弁して欲しい。
座っているのにクラクラして、目眩がしてきた。
お願いだから、私の目の前から居なくなって……。

「まひろがそれだけ私を拒否したい気持ちはよく分かった。大学進学を強く希望していたのに、進学校にも進まずに高卒で就職したのも私に対する反発だったんだろうな。本当に申し訳なかったと思っている」

申し訳なかった?
本気で思っていると言えるの!?
私がどんな思いを抱えて今まで生きてきたのか、分かるわけないでしょうに。

ああ、本当に具合が悪くなってきた。
息が苦しい。
目の前のこの人には頼るわけにはいかないんだから、しっかりしなくちゃ……。

「もし良かったら一緒にランチでもどうだ?ここのシャ食は美味しいと評判らしいし、ここならまひろも」

だ、だめ。
誰か……誰か……。
助けて…………………。

「蘭さん!」

廊下の向こう側から聞こえたのは、多分私が一番聞きたかった声。

「こんなところにいたのか!」

佐伯主任………来てくれたんだ。

「蘭先生と一緒だったのですか。すみませんが、これから私たち2人で外勤にでますので、まひろさんを連れていきますが宜しいですか」

「佐伯主任の邪魔をするわけにはいかないからな。では私はここで失礼させてもらうよ。うちの依頼の件も宜しく頼むよ、佐伯くん。また会おう」

「失礼します」

良かった……。
心から安堵の息が漏れた。

「蘭さん、顔色悪いけど大丈夫か?経理部の用事は済んだ?」

「すみません……まだ……」 

私、仕事もしないで、なにやってんだろ。

「分かった。広報に届け物してから俺が行ってくるから。ここで待ってろ」

去り際に頭を軽くポンポンとしてから、足早に行ってしまった佐伯主任の後ろ姿を黙って見つめていた。


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