real face
次の瞬間、鋭く尖った視線を貴浩部長に突き刺し、何か牽制しているようだった。

貴浩部長はと言うと、肩をすくめてまたペロっと舌を出していた。

「蘭さんはお菓子とか作ったりするの?」

「ええまあ、作るのは嫌いじゃないです」

佐伯主任に作ってあげたいなんて思ってしまったけど、やめといた方がいいのかも知れない。
私は見知らぬ誰かにジェラシーを感じて、気分が沈みそうだ。

「俺に作ってくれたら嬉しいけどな。あ、でも俺みたいな奴には作ってくれないよな」

なんともコメントし辛い……。
確かに作ってあげたいとは思えないけど。

「佐伯さん聞いてよ。前回の打ち合わせの時に、蘭さんから『腹黒い』なんて言われちゃってさ!」

…………はぁ?

「ちょっと、貴浩部長。私『腹黒い』なんて言ってませんよ!」

「あれ、そうだっけ?胡散臭いとか思ってるんだよね?」

それって全部、貴方が自分で言ってたんじゃないの!!

「いいえちっとも思ってません!紳士的で大人で素敵だと思ってます」

佐伯主任になんてこと暴露してくれてるの。
違う、暴露じゃない。
虚偽!偽装工作!!

焦って主任に弁解しようと思ったけど……主任?
下を向いていて顔は見えないけど、肩が……。
小刻みに震えている。

「──────!!」

絶句。
この空気、一体どうしたらいいの。

「ごめんごめん、いじめ過ぎたね。ほら、佐伯さんもいい加減笑うのやめてあげなよ」

さっきよりも落ち着いてるみたいだけど、まだ笑いを堪えるのに必死なご様子。

「もう……。貴浩部長も、佐伯主任も………」

ちょっと酷いんじゃない?
拗ねてもいいかな。
もう、早く帰りたい……。
この微妙な空気をなんとかできたらいいのに。
そう思ってはいても、この状況を打破する術を私は知らなかった。

「もう、本当に飽きないなぁ……。まひろさんは」


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