real face
まさか独りで泣いて仮面崩壊していたなんて、知られるわけにはいかない。
知っている人が約1名、この場にいるんだけど。
やっぱりあの男を避ける訳にはいかないのか。

今日は珍しく、外勤に連れ出された。
宮本課長と一緒だ。
訪問先は、うちの会社が開発・発売している教育用品の製造元"RYUZAKI工房"
木原課長の担当だったのを、佐伯主任が引き継ぐと聞いていた。
佐伯主任が出張中のため、宮本課長が出向くことになったらしいけど、なんで私まで?
そんな疑問は、龍崎貴浩(りゅうざき・たかひろ)製造部門統括部長との打ち合わせ中に明らかになった。

「貴浩部長、佐伯が急遽出張になったため伺えず申し訳ありません。帰り次第またこちらからご連絡させて頂きますので」

RYUZAKI工房は、龍崎一族での経営だから、龍崎さんだらけ。
だから呼びわけのために、下の名前で呼ぶのが慣例みたいになっているようだ。

「佐伯さんには営業マンの頃に世話になりましたから。安心してお任せできます。それに、希望も叶えて頂いて……」

貴浩部長がゆっくりと視線を私に向けてきた。

「はい。主担当は佐伯になりますが、サブで蘭にも対応させますので。なんなりとお申し付けください」

ちょっと、私そんなこと聞いてない!

「わ、私ですか?宮本課長」

「佐伯さんはまだ異動してきたばかりで慣れない部分があるだろうからね。蘭さんはラーセク一筋で頑張ってると聞いてるから、フォローしてくれると心強いよ。きっと最強のコンビになるだろうね!」

貴浩部長から思わぬ期待の言葉をかけられてしまった。

「は、はい、頑張りますっ!!」

「本人も貴浩部長からの激励を受けて、やる気を出しているようです。至らない点も多々あるかと思いますが、宜しくご指導願います」

これから、この貴浩部長と関わることが増えるんだ。
それよりも宮本課長、佐伯主任と私を組ませようなんて、いつから考えていたんだろう?
なんでもっと早く言ってくれないのよ。

RYUZAKI工房を出る頃、ちょうどランチタイムになっていたため、会社に帰る前に外でお昼を食べることにした。

「課長、歓送迎会ではみっともない姿を見せてすみませんでした」

「休憩時間だし誰もいないから普段通りでいいぞ。でも、まひろと佐伯がねぇ」

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