real face
ほんの一瞬だったけど、唇が塞がれてしまったから。
心拍数を上げる暇もないほどの、一瞬だけ。
掠めるような速さにキョトンと主任を見つめる。

「……プッ。刺激が強すぎるとまた腰が立たなくなってしまうから、これで我慢しとく。おやすみ」

「……おやすみなさい、主任」



──翌日、9:00。

時間通りに下りると、もう既に車を駐車場に停めたらしい佐伯主任が、エントランスで待っていた。

「おはようございます、主任」

「おはよ。……遅いぞ」

「あれ?時間ピッタリじゃないですか。遅刻はしてません!」

「普通待ち合わせ時間より早く来るもんだろ?俺は30分前には着いてた」

は、早いっ。
もしかして、そんなに楽しみにしてくれていたってこと?
な、なんか子供っぽいかも。

「お待たせしてすみません。早起きするために早く寝ようと思ったのに、なかなか眠れなくて……」

「それで寝坊か?」

「寝坊っていうか、準備の時間が少し短くなってしまったというか」

「ああそうか、そのナチュラルメイクってかなり時間がかかってるんだな。……ん?その荷物は」

「あ、勝手に作ってしまいましたが、お弁当です」

ちょっと驚いたように目を見開いた主任は、ほんの一瞬だけ眩しいほどの笑顔を見せてくれた。
そして直ぐに私の手からお弁当の入ったバッグを奪い去ると、駐車場に向かっていく。
慌てて追いかけると、何かをボソッと呟いたみたいだったけど、よく聞こえなかった。

「……今日はネズミたちは居ないようだな」



「ところで、絶叫マシンとか乗れるんだろうな?」

そう、今日の行き先は"遊園地"なのだ。
私が遊園地を選んだのは、まあそれなりの理由がある。
付き合うようになってから、だいぶ印象が変わってきたように思える佐伯主任だけど、まだまだ無愛想なのは否めない。

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