real face

"S"作戦、始動  ※佐伯翔真視点

『翔、俺が戻るまで菜津美から目を離さないでくれ。頼む』

イチにぃからのメールだ。
『戻るまで』って、何処に行ったんだ。
蘭さんの姿も見えないし。

今日は蘭さんとここに来てほとんど話をしていない。
蘭事務所の人たちもいるし、あまり一緒にはいられないだろうと思ったが、それにしても必要以上に避けられているような気がする。
厚化粧だし、表情硬いし、近寄れないし。

……遠くからの視線を感じて目を向けると、霧島さんが俺に近付いて来るのが見えた。

「あの、佐伯さん……。こんなことを私の口から言っていいのか分かりませんが」

何を言うつもりだ。

「さっき宮本さん……あ、お兄さんの方ですけど、ちょっと用事を頼んでしまったんです。私がまだここを離れるわけにいかなかったので。BBQの道具を貸してくれた所に返却をお願いしました」

「ああ、道理でいないと思ってました」

なぜそんなに早く返さないといけないのか。
相変わらず、人使いが荒いな。

「私が宮本さんにお願いしてた時、その場にまひろさんがいたんですが、宮本さんに着いて行くって言い出して」

なんだって?

「まさかの展開で私もどうしたらいいかわからなくて。宮本さんも最初は1人で行くと言ってたんですが、押し切られるように2人で行ってしまいました」

「そうですか……分かりました」

いや、本当のところは何も分かっていない。
どうして、イチにぃと蘭さんが一緒に?
さっきのメールではそんなことは一言も触れてなかったよな。

霧島さんの言葉も鵜呑みにはできないし、イチにぃも何かを感じながら流れに任せているだけなのかも知れない。
"S"作戦はあくまでも『相手に逆らわず、相手のフィールドで』が鉄則らしいからな。

「あの佐伯さん、宮本さん……あ、修一さんの方ですけど、何処に行ったか知りませんか?」

「修ならさっきまで一緒に片付けしてましたが。いないんですか?」

そういえば、見えないな。

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