real face
目につくのは蘭事務所のメンバーばかりだ。
修以外の。
目を離すなと言われた有田さんもいなくなってる。

「あ……!佐伯さん、あれ見てください」

霧島さんが小声で囁き、何かを指差した。
その先には、吊り橋が揺れている。
揺れているのはもちろん誰かが歩いているからで、その人物を目を凝らしてよく見ると……。

「あれは……修と有田さんじゃないか」

「やっぱり、あの2人……。佐伯さん、ちょっとマズイことになるかもしれません!」

「……どういうことだ?」

「さっき宮本さんのお兄さんに頼み事をしたと言いましたよね。あれ実は、修一さんからの指示だったんです」

……………は?

「なんで修のやつ、そんなこと」

「まひろさんが着いていったのは誤算だったかもしれませんが、お兄さんを遠ざけて、有田さんに接触を図ったんじゃないでしょうか」

これが、これこそが……"S"作戦なのか!
修……。

とりあえず、あの2人を追うしかない。
イチにぃ悪いな、ちょっとだけ目を離してしまった。
目指すは、吊り橋だ。

「佐伯さん!うちの事務所の人たちは幸い気付いてないようなので、このまま先に帰ってもらうようにします。後で私も追いかけますから、先に行ってください」

「ああ、分かった」

とにかく急がないと。
修は有田さんを連れ出してどうするつもりなのか。
お前のターゲットは蘭さんじゃなかったのか?
イチにぃ、早く戻ってこいよ!
この"秘境渓谷"は携帯の電波が途切れやすく、電話は繋がらなかった。
さっきのイチにぃからのメールはたまたま電波が繋がったんだろう。
それ以来、俺の携帯は沈黙を続けている。

蘭さんとイチにぃの方も気になるが、今はこっちが優先。
俺は修と有田さんを追いかけるべく、走り出した……。




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