real face
『好きだったんだ』

それって、従妹としてじゃなくてって意味なの?
だったら、私たちお互いに……。

「今更だけどな。過去の話だ……昔話。だけど、ずっと言えずにいたから俺の中で燻ったままだったんだ。やっと言えてスッキリした」

この体勢じゃイチにぃの顔が見えないけど、声の様子からしてもきっと晴れやかな表情をしてるんだろうと思う。

「イチにぃ、私は……」

「ああ、いいよ。言わなくていい。お前の返事なら分かってるから。困らせたくなくて言えなかったんだからな。じゃあ最後まで言うなよって?もう時効だろ」

もう、自分だけスッキリしちゃって。

「今のうちに言っとかなきゃもう言うチャンスがなくなると思ったら、言わずにいられなくなった。ただ、それだけだ」

私に何か言う隙を与えずに、一気に言葉を吐き出したイチにぃ。
もう震えも収まってる。

だけど私たちは抱き合ったまま、ここが吊り橋の上だということも忘れてしまいそうだった。

「俺は……菜津美にプロポーズするよ。もういい歳だし、早く結婚したい」

「え!結婚って!?もうそんなに進展して……」

「いや、まだまだこれからだ。お前らに先を越されるわけにはいかないから、早く決めないとな。そのためには……」

「まひろ!!」

遠くから、叫ぶように私を呼ぶ声が聞こえた。

………『まひろ』?

イチにぃはここにいるし、シュウにぃの声とは違う。
だけど、よく聞き慣れた、私の好きな声だ。

「フッ……あいつ、やっとかよ。待ちくたびれたぜ。なあ、まひろ?」

体を解放され、手を引かれて立ち上がる。

「ゆっくりでいいから。翔にちゃんと引き渡すのが俺の役目。これからは翔に守ってもらえよ」

もうすぐ吊り橋を渡り終える。
私が来るのをじっと待ってくれてるのは、私の想い人。

佐伯主任……。

長かった吊り橋から地に足をつけると、イチにぃの手が離れた。
今にもイチにぃに掴みかかりそうな勢いの主任が、声を荒げた。


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