real face
帰るためにまた吊り橋を渡る。
主任の腕にしがみついて、ゆっくりと歩みを進めていく。

「大丈夫か?無理せず我慢できなくなったら言えよ。俺がちゃんと連れて帰るから」

そんな優しい主任に、どうしても聞きたくなってしまった。

「主任……菜津美と渡ったときも手を貸したりしたんですか。菜津美も怖がってたの?私みたいに……」

これは紛れもない、嫉妬だ。
いま菜津美はイチにぃと私たちの先を歩いてるはずだけど、私は自分の恐怖心と戦うことでイッパイイッパイだし、目を瞑っているから様子を窺い見ることもできない。
主任の腕に更にギュッと強く抱きつきながら、返事を待った。

「遠くからみた限りじゃ、そんなに怖がってるようには見えなかったけど」

……遠くから?

「だって、霧島さんが………」

「あの女、大概だな。修と有田さんが吊り橋を渡っているのを、下で見てたんだ。俺と霧島さんがな。で、マズイことになるかもって煽られて追いかけさせられた。他に聞きたいことは?」

なぁんだ、良かった。

「なかなか終わりませんね、吊り橋。ゴールはまだですか?」 
 
とっさにそう言ってしまったけど、主任の腕にくっついていられるならまだ続いても構わないのに。

「もう目を開けていいぞ。ほら」

え、もうちょっとこのまま……とは言えず、言われた通りに目を開けて吊り橋を渡りきったことを知る。

「あっ、ありがとうございました」

パッと腕から離れてしまった自分にちょっと呆れた。

「じゃ、帰るか。足元気を付けろよ」

今度は主任が私の手を取って、しっかりと握りしめてくれる。

「……はい」



駐車場には、佐伯主任とイチにぃの車しか残ってなかった。
シュウにぃや霧島さん、迫田さんも、いつの間に帰ってしまったんだろう。
イチにぃと菜津美に別れを告げ、主任の車に乗り込んだ。

行きの車の中ではほとんど会話もなく、重い空気だった……私のせいで。
今は、付き合い始めたばかりのようなぎこちなさはあるけど、それが妙に心地よかったりする。

「じゃ、行くか」

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