real face
返事をする暇もなく、通話は切れてしまった。

「父さん、何て言ってた?」

「明日までごゆっくりって。でもどうして、知っていたんだろう?私が名乗る前に『まひろさん』って言ってたし」

「俺も驚いたけど、双子が母さんから聞いたらしい。父さん興奮気味だったから、帰ってきたら質問攻めだな。ま、とりあえず報告したし、家に入ろう」

こうしてやっと車を降りた私たちは、家に入ったのだった。
ピザを食べながらの会話は結構弾んで、昼間のよそよそしさとは打って変わって楽しく過ごすことができた。

それから、お風呂……。
恋人同士としてはお決まりなのか

「一緒に入るか?」

なんて、冗談とも本気とも判断がつかない台詞には

「遠慮させて頂きます!」

もちろん、全力でお断り申し上げた。

「じゃ、お先にどうぞ」

ちょっと苦笑いしながらも、お風呂の給湯パネルの操作方法を教えてもらって、初めて入る主任の家のお風呂を満喫することができた。

お風呂で化粧を落としてスッピンになった私を、マジマジと見つめた主任は、ちょっと照れたようなはにかんだ笑顔を見せた。
チュッと啄むようなキスを唇に落として

「俺も風呂入ってくる。……俺の部屋で待ってて。階段上がって左側だから」

そう言い残して行ってしまった。



──20:55

主任がお風呂から上がってきた。
まだ完全には乾いていない濡れ髪が色っぽくて、まともに顔を見れない。
ドキドキを誤魔化すように部屋をキョロキョロ見回してたら、映画のDVDが並んでいる棚が目に入った。

「主任、映画好きなんですか?」

「そうだな、映画館に観に行く事もあるけど、もっぱら部屋でDVD鑑賞って感じかな。どれか観てみる?1本くらい観る時間あるだろ」

「え、いいんですか?主任が観たいのどれですか?」

「俺はいつも好きなの選んで観てるから、お前が観たいの選べよ」


私が選んだ映画は、社内恋愛をしていた主人公が恋人との別れを経て、社内でも超エリートとお見合いすることになり、その彼との関係がどんな風に変わっていくのか……というストーリーらしい。
映画の内容が気になったというより、主任がこういう映画を観るんだっていう興味が大きかった。

「これがいいです」

「分かった。じゃあこれにしよう」



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