real face

龍崎貴浩という男

──木曜日。

今日はRYUZAKI工房で貴浩部長との打ち合わせ。
佐伯主任は朝から終日会議のため、私ひとりで行くことになっている。

本当は私も佐伯主任と一緒に、ワーセクとのプロジェクト会議に参加したかった。
しかし、貴浩部長は出張で全国を飛び回る忙しいお方なのだ。
今日しか時間が取れないということなので、貴浩部長と私2人での打ち合わせになったんだけど。
こんなこと言ってはいけないんだろうけど、私はどうもあの貴浩部長が苦手なのだ。

この前は宮本課長と一緒に行ったからまだ良かったけど、今回は2人きりだと思うとちょっと憂鬱になる。
佐伯主任はもう会議に行ってしまった。
そういえば、先週末に佐伯主任から言われたことなんだけど。

『お前、俺とコンビ組んだ自覚あるのか?』

私が佐伯主任以外の人から仕事を頼まれるのが、気に入らなかったみたいだった。

佐伯主任とコンビ組んで、1週間。
特に今週に入ってから思った事がある。

本当の意味では自覚、できてなかったのかも知れない。
はっきりと"できてなかった"と言いたくないのはプライドなのか。
しかし自覚が"足りなかった"のは紛れもない事実だろう。

主任からの指示内容が段々と高度なものになってきているのが分かる。
そうなってくると作業も簡単には進まないし、時間もかかるようになってくる。
主任は指示する時も多くは語らないし、必要最低限の事しか伝えてこないので、意味を取り違えて注意をされる事もあるし。

厳しい鬼主任……。
仏頂面にお説教が本当にお似合いですこと。

でも私はめげたりなんかしないんだから。
思えば、今までの上司にはこういうタイプの人がいなかった。
今までの私に最も足りてなかったのは"向上心"なのかもしれない……。
それを気付かせてくれたのが、佐伯主任なんだ。


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