real face
「蘭さんについつい構ってしまったのは、妹みたいで可愛かったからなんだ。ただ、蘭さんだけじゃなく、他の課員にまで勘違いさせるような振る舞いをしてたことは申し訳なかった。ごめん」

「それって、どういう意味ですか……?」

「美里に、君の味方になって応援するようにさせたのも俺なんだ。だから美里のことを責めないでくれ。悪いのは全部俺だから。この部署の立ち上げメンバーとして異動してきた5年前から、いやその前から俺たちは会社に秘密にして付き合ってたんだ」

そうか、そういうこと。
私にちょっかい出したり、気があるように見せかけたりしたのは、美里先輩との恋愛関係を隠すためだったんだ。
例え私との仲を誤解されたとしても、課長と先輩の関係を秘密にしておくことこそが目的だったということ。

そして今このタイミングで2人の関係を公にするのは、結婚への準備が整ったから。
もう秘密にする必要がなくなったから。
そういうことなのね。

私は、2人を守るためのツールでしかなかったのだ。
とんだピエロね。
化粧の下に素顔や本音を隠して、不自然な笑顔を貼り付け、みんなから笑われる憐れなピエロ。
今の私にピッタリの役割。
それなら堂々と、演じきってみせるから。


ニッコリと笑顔を浮かべ、2人に向き合う。

「私なんかでお役に立てたんでしたら、良かったです。藤本先輩には指導係として、社会人としての心構えとか恋愛相談とか、仕事のことだけでなく色々とお世話になりました。頼りない後輩で、すみませんでした。木原課長と幸せになってくださいね、美里先輩」

「あ、あの私……」

なにか言いたげな先輩と課長に「失礼します」と告げて、席を立った。
そのまま自分の席に戻りたくなくて、トイレになんとなく向かう。
会場の部屋を出ると、静かな空間が私をクールダウンさせてくれた気がした。
もう、これで完璧に終わった。
トイレを済ませ、洗面所で鏡を見てみる。
見慣れたはずのしっかりメークの私の顔が、今はまるで仮面でもつけているかのように滑稽に見えた。


ひどい顔……。
私って毎日こんな顔で過ごしているのね。
それ以上、見るのに耐えられなくなって洗面所から逃げるように立ち去った。


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