real face
は?
今?その話題持ち出すの、今ですか!?
あの悪夢のファーストキスの思い出がまざまざと甦ってきた。

よくも抜け抜けと……!
キッと鋭い視線を向け、佐伯主任を睨み付けようとした。
だけど、思いの外真剣な眼差しを向けられていることに気付き、威力を失ってしまった。
まるで捕らえられた獲物みたいに、動けずにいる私。

「いいえ……。したことあります。23年の人生で、たった1回だけですけど……」

あなたとね。
しかも、つい2ヶ月前に。
思った以上にか細い声しか出なかった。

どんな反応かと気になって、主任の顔をチラリと盗み見てみる。

あ、あれ?
口が半開きでポカンとした表情。
こんな顔の主任、見たことない。
レアだな、写真でも撮りたいなんて思った束の間。
ふっと我に返ったように表情が引き締まり、何故か不機嫌モードになった。

イラついた様子の主任が、私を見て更に距離を縮めた。
もう寸分の隙間もないくらいの急接近。
あ、あれ、なんか、この感じって。
あの2ヶ月前の再現か!?
心臓の音がドクドクと煩いくらいに鳴り響く。

「そいつは予想外だったな……」

また雰囲気が変わったのを感じた。
熱に浮かされたように、私を熱くさせているのは、至近距離で絡み合う視線。

じっと見つめ合う2人の距離がゆっくりと狭められていく……。
そしてスローモーションで、主任の長くて骨張った指が私の顎に添えられ、クイッと持ち上げられた。

「じゃあ、2回目」

言い終わるか終らないかのタイミングで、触れ合った唇。
目を閉じることもできず、息をするのも忘れそうになった。
多分ほんの数秒だったんだろうけど、唇が離れるまでの間は時が止まったような気がした。

いや、止まって欲しかったとでも言うべきなのか?
名残惜しい、まさにそんな感じだった。

主任と私はまだお互い見つめあったままだったけど、眼差しが何かを訴えかけるように、ゆらゆらと揺れているように見える。
驚いたような、疑問を抱いているような。
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