real face

Remember  ※佐伯翔真視点

──6月1日。

修は今日から正式にこっちの蘭事務所に着任になったはずだ。

『着任日がまひろに会う解禁日』

そう言い放った修のことだ。
どうにかして今日のうちに蘭さんに接触してくるつもりでいるに違いない。
まさか会社に乗り込んでくるとは思えないが。
電話やメールで連絡してくることも考えられる。
蘭さんも気にしているのか、若干落ち着きがないようにも見えるし。
本人に修から連絡が来ていないか確認したいところだが、それをやると益々気にさせてしまいそうで言えない。

2人きりを狙うとしたら、家に帰るところを待ち伏せするつもりか?

「蘭さん、今日渡したデータのバックアップは済んだのか」

「あ、今やってるんですがもうすぐ終わります。あと5分くらいですけど」

PCの画面から一旦目を離し、俺の方を見て返事してきた。
そんな彼女に、周りに人が居ない事を確認してから俺は言った。

「じゃあそれが済んだら今日はもう上がろう。……送って行くから」

「え、あ……はい」

帰り道、修がどこで待ち伏せしているか分からない。
家まで一緒なら、とりあえず安心できるからな。
……俺が。

電車を降りて駅から蘭さんの家まで、徒歩5分。
歩いている途中にも気を配っていたが、特に気になる事は起きなかった。

周りを気にしていたせいで、いつも以上に会話がなかったけど、退屈だったか?
でもいつもそんなに話す方じゃないし。
こうやって2人で歩いていても、恋人らしくない。
手でも繋げたらいいんだろうけど……。

今はまだ"上司と部下"の関係から抜け出せていないのが現状。
もし今日、修が待ち伏せていたとしたら、その時が勝負をかける時だって思っている。

そのシナリオは何パターンか用意してあるが……。
修の行動や蘭さんの反応や言動によって、そのつど変更される場合も想定しなくてはいけない。

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