【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~


「この間、ストリートライブを復活した日、約束しただろ。

 そのプロジェクトが順調に進行しそうだ。

 まず最初に波瀬【ハゼ】駅前のうちの緑地公園から始動してみることにした。

 公園内のスペースとお互いの音を干渉しない距離間を考えると、
 同時に出来るのは15組くらいかな。

 夕方16時くらい~20時くらいまでの時間を限定とする。

 波瀬駅を出てから、最寄りのLIVEハウスに行くまでの道程を、
 緑地公園を通って貰う形にしたら、音楽ストリートとしての役割も果たせる。

 幸いにして閉鎖されたLIVEハウスを見つけたから、
 今はそこを買い取って改装している。

 音楽ストリートで投票してもらって、順位が上位にいったグループは、
 そのLIVEハウスで演奏の機会が与えられて、
 そこにはプロになるための音楽事務所とのパイプラインも整備してある」



そう言って、資料をめくりながら光輝は話してくれた。


アタシも嬉しいし、アタシと同じように「歌う場所」を探して
さ迷ってるアマチュアにはもっと嬉しいかもしれない。



「そのLIVEハウスの開幕のステージを狭霧につとめて欲しいんだ。
 
 後は、その音楽ストリートの運営にも如月は積極的に役員としてかかわってほしい。
 運営や経営自体は、俺や俺の仲間たちが協力しあう」


もう驚くほどのプレゼントがあって、
アタシからのプレゼントは、妊娠の報告で……。


その日はお互い、
びっくりし通しのまま自宅へと帰った。


その日、二人で同じベッドで寄り添う時間。


光輝はアタシのお腹に、
そっと掌をのせながら話してくれた。


真梛斗は、
如月のことをずっと野良猫って言って笑ってたけど、
俺にとっての如月は金糸雀だったんだって。



野良猫って言わたら、
あぁーって思うアタシも、
アタシを見て、
金糸雀って言われると、えっ?っと思ってしまう。



「どうして金糸雀なの?

 そもそも、金糸雀って、
 あの黄色の鳥?」

「黄色の鳥も金糸雀には違いないけど、金糸雀は種類が沢山いるんだ。

 金糸雀ってさ、日本では凄くひ弱な印象があると思うんだけど違うんだ。

 金糸雀は種類が沢山ある分、楽しみ方もいろいろあって、
 色を楽しむ品種を色鳥、変わった模様を楽しむ品種は羽鳥、
 変わった羽や姿勢、大きさに変化を持たせた品種を形鳥、
 巻き毛や姿勢を観賞する品種を姿勢鳥、
 さえずりを愛でる品種を鳴鳥って、こんな風にわけられるんだ。

 だから歌声を楽しむっていう意味では、
 最初は鳴鳥としての意味合いで、金糸雀って如月を思ったのかもしれない。

 だけど金糸雀には、
 炭鉱の金糸雀って言って随分危険な役割をしていた鳥たちもいるんだ。


 炭鉱って、しばしばメタンや一酸化炭素が発生するだろ。
 そんな窒息ガスや毒ガスの警報として使われ続けた歴史もあるんだ。

 異常が発生すると、鳴き声が止むんだ。
 危険を目と耳の両方から教えてくれるってさ。

 そんな命がけのところが、ずっと気を張り巡らせながら危険地帯に向かって
 友達と守ろうとしてた姿と重なってさ。

 学生時代もそうだったけど、社会人になってからも、三枝のお見合いをかわっただろ」


そう言われた瞬間、
あの時、あの社長から助けてくれたのが光輝だったことに気が付いた。


「知ってたの?」

「たまたまだけどね。
 俺も商談で居合わせたホテルだった。

 あの中尾物産の狸親父は、あんまりいい噂聞かないんだよ。

 だから気になって、近づいた」


そう言って光輝は教えてくれた。
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