【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
そしてその後に浮上したお見合い話。
光輝はアタシ側の事情を知り尽くしたうえで、
アタシを受け入れてくれた。
アタシとお見合いの席で再会した時は、
鳥籠とも言える箱庭の中で金糸雀が居たように見えて、
外の世界に連れ出したかったのだと……。
やっと金糸雀が空を羽ばたきそうだって。
そう言って凄く嬉しそうに笑ってくれた。
翌日からLIVE当日までアタシは体の様子も観察しながら、
朝から晩まで部屋にこもって、LIVEの為の練習を始めた。
金糸雀のその話を聞いて、ネットで金糸雀を調べている間に、
綺麗に鳴くのはオスだって知って『をいっ』と思ってしまったアタシも居たけど、
そうやって光輝が言ってくれた声を今はメンテナンスして、
本調子に戻したくて、ボイスレッスンの教室を見つけて出掛けてみる。
そうしてあっという間に、
二週間と言う時間は過ぎていった。
箱での初LIVEの日、
アタシはドキドキしながら光輝と一緒に会場へといった。
「今日は宜しく、狭霧ちゃん。
ストリートで歌ってた時から知ってたよ」
そう言って握手を求めてくれたのは、
光輝たちが頼んだこのLIVEハウスの店長さん。
音響さんとかもLIVEハウス専属の人たちが居て、
その人たちと一緒に順番にリハーサルを行っていく。
そんなアタシの姿を一番近くで見守ってくれている光輝。
リハーサルが終わって楽屋に戻ったら、
今の今まで用意をすることすら忘れていたステージ衣装がハンガーにつるされていた。
「待ってたよ。
如月さん、光輝」
そう言ってアタシたちを迎え入れたのは、一綺さん。
って言うことは、これも……姫龍さん?
恐る恐る手を伸ばすと、
Kiryuブランドであることを記すタグがつけられていた。
「準備は万端。後は、着替えてメイクだよね。
メイクはうちのスタッフに」
そう言うと一綺さんは光輝を連れて楽屋から出て行った。
残されたスタイリスト?さんたちに、
後は流されるように衣装に袖を通しメイクとヘアセットをしてもらうと、
いつもの路上でLIVEしてるアタシとはまた違ったアタシになる。
「一綺さま、光輝様、お支度が整いました」
そう言ってスタイリストの二人が出ていくと、
「じゃ、また後で」っと一綺さんはそのまま何処かへと消えていく。
「……光輝……」
「やっぱり、見立てたとおりだ。
似合ってるよ。
最後の仕上げは、これかな」
そう言うと、
光輝は見たことがある小さなジュエリーボックスをポケットから取り出した。
「えっ?どうして?」
光輝がそれを持ってるの?
そのジュエリーボックスは、
アタシと真梛斗のブラッディ―ピアスが最初に入っていたケースで。
そしてその中から、
アタシの耳をずっと飾ってたのと同じピアスが光輝の掌の上でアタシの前に差し出された。
「事故の日、真梛斗に託されたんだ。
これはずっと真梛斗が持ってたピアス。
今日の日を俺と同じようにアイツも楽しみに待ってたと思うからさ。
一番近くで聴かせてやってよ」
そう言って、
アタシの耳に静かに飾られた真梛斗。