【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~



……アタシって、何やってるんだろう。
空回りばっかり。




床に転がったままの体を何とか窓のある壁際へとミノムシのように体を縮ませたり伸ばしたりしながら移動すると、
カーテンの端を口でくわえて、ゆっくりと開く。

そして壁に寄せるようにもたれかかって、ゆっくりと時間をかけて体を起こした。


窓からに見つめる月の光が今は優しかった。





ねぇ……真梛斗。
アンタ、アタシを放って何処に居るのよ?


アンタが居る場所だったら、
アタシは海の中でも、山の奥で、秘境の地でも、幻の地でも、
何処へだって行ってやるのに……。




目を閉じれば、アイツがアタシの名を呼ぶ声が耳に響く。




『きさ……』



時折、響く真梛斗の声を抱きしめるように、
アタシは両手は相変わらず後ろにくくられたまま、
崩れ落ちるように壁にもたれて、眠り落ちてしまっていたみたいだった。




「如月お嬢様。
 おはようございます」


使用人の声が部屋の外から聞こえる。
その声に、痛みの残る覚醒をして目を覚ます。



「入って。起きてるから」



少し掠れたような声で答えると、
鍵をまわす音ともともに、昔からいる使用人の【三橋(みつはし)】が姿を見せた。



「あっ……三橋……」



実家に寄り付かなくなっても、覚えているものだね。



「お嬢様が家を出られまして暫くの間はお嬢様付きの私としましては、
 お暇を出されておりましたが、先日、新たなお話を頂戴しました。
 この度は、おめでとうございます」



三橋はそう言うと、アタシの前で深々とお辞儀をした。



アタシが知っている頃の三橋はもっと若くて、はつらつとしてた。

アタシは庭の木に登って降りなかったら、
スカートをまくり上げて、自らの同じ場所まで登ってくるように存在。


寮生活が始まったら毎日のようにアタシの様子を見に、
寮へと顔を出しては15分ほど話をして、帰っていく。


ババアやジジイと居るよりは、三橋と居ることの方が長かったような気がする。


そんな三橋も今は髪に少し白髪が混ざり始めて、
苦労してきているのが感じられる容姿と変化していた。



アタシが家を飛び出して、お暇を出されたってことは……多分クビにされたということ。
そしてまた、都合がいいように呼び出されて、アタシの傍へと戻された。


全てはアタシと言う存在を、ババアが理想とする子爵令嬢のレプリカへと生まれかえらせるため。


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