【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
「まぁまぁ、お嬢様。
奥様も、大旦那様もお嬢様に酷いことをなさいますわね。
私の方にお手を見せてくださいませ」
そう言うと三橋は、両手を縛る縄を解いてくれる。
「あぁ、楽になったぁ」
解放された両手をわざと左右それぞれ対照的に開くと、頭の上で軽く組んで伸びをする。
「すぐにお風呂のご用意を致します。
お嬢様は、こちらの朝御飯を召し上がってくださいね」」
そう言うと、風呂敷に包まれた重箱をアタシの前に見せた。
「まだ持ってたんだ……それっ」
「えぇ、お嬢様が大切になさっていたものは、
今でも私にとって大切なものでございますよ」
三橋に渡された重箱をアタシは、自由になった手を使って開いていく。
可愛い猫柄の三段の小さな重箱。
この重箱いっぱいに大好物を詰めて、寮を訪ねてきてくれた三橋を思い出す。
肉団子・甘い卵焼き・唐揚げ・ハンバーグ。
そして……ちらし寿司。
ちらし寿司は、大好きなばーばに教えてもらって覚えてくれた思い出の味。
そんなお弁当と睨めっこするアタシの傍にお風呂の支度を終えて戻ってきた三橋は、
取り皿にと盛って手渡す。
そんなところまで昔と同じだ。
「どうぞ。今のお嬢様にとっては、幼すぎる食べ物かも知れませんね。
ですが、お嬢様を思いながら作っていると楽しくて」
そう言って、三橋は嬉しそうに微笑んだ。
受け取ったお皿の中、唐揚げにお箸を伸ばして一口かじると、
口の中には懐かしい味が広がった。
「有難う。三橋」
「さっ、私が知らない間にお嬢様は少し痩せてしまわれたのかしら?
お肌も整えないといけませんわね。
せっかくの晴れの日ですのに……」
そう言うと、三橋は腕まくりをして、何やら楽しそうにいろいろと準備を始めた。
そんなに食べきれない朝御飯を何とか食べきったものの、
気持ち悪さが強くなって、数分後にはトイレで戻してしまった。
だけど戻したなんて言うことも出来ないし、知られたくない。