【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
「さぁ、どうぞ。
俺が借りてる部屋なんで自由に過ごしてください。
俺が悧羅校出身ってことは、如月さんもご存じですね」
「そのように伺っております。
その名に心当たりはあるものの、直接の関係はなかったものと存じますが、
そのような方が、どうして私との縁談をお受けになられたのか、
私の中で疑問が生じております。
貴方様のようなお方でしたら、取り囲む女性も多いかと……」
慇懃無礼に近いような物言いで言葉を返す。
だけど、そんなアタシの作戦に乗ってくる気配もない。
アタシには真梛斗しかいない。
だったらアタシは、今日、何が何でも先方から断られる形で、
破談にしなければいけない。
何故か、そんな使命感だけが心の中にともりはじめた。
三杉さんは部屋のソファーに座ると、何処かへと電話をする。
するとすぐに三橋がお茶を運んで部屋を訪ねてきて、
部屋を後にした。
えっ、三橋?貴方がどうして……。
「どうぞ。
貴方のことを昔からよく知る彼女に、
明日からの貴方のお世話を依頼しました」
えっ?
明日からのアタシのお世話?
話が見えないアタシは、口元に運びかけたお茶で粗相をしてしまう。
せっかく着付けた振袖がお茶に濡れてしまう。
「あっ」
っと声を上げた途端に、スマートに立ち上がった三杉さんは、
「火傷はしませんでしたか?」
っとアタシの手を気遣う。
そしてその後、振袖に意識を向けて「振袖が染みになってしまいますね。着替えを用意しましょう」っと、
また何処かへと連絡する。
次に姿を見せたのは、大きな紙袋を手にした男の人。
あれっ?
あの人は……居酒屋で会う新田さん?
「お知り合いでしたか?」
思わず顔に出てしまったのか、三杉さんに問いかけた。
「知っていると答えたら、どうなさいますか?」
少し言葉を強調するように、三杉さんを揺さぶるように答える。
「別に、如月さんが新田を存じているのなら、それはそれで構いません。
俺もその場所を知っていると言うことだけですよ。
しいては、俺と貴方が逢うのは初めてじゃない。
そうとも言えますが……」
揺さぶろうと思ったのに、なんだか逆に揺さぶられてる感が満載なんだけど……。