【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~


「さぁ、着物はクリーニングに預けます。
 如月さんは、こちらのお洋服を……」


そう言うと三杉さんは、新田さんが手にして入ってきた紙袋をアタシへと手渡した。

さりげなくエスコートされた奥の部屋に入ると、
Kiryuの文字が輝く、真黒な紙袋から真新しいタグのついたパーティドレスが姿を見せる。



オーガンジーとフラワーレースがオフショルダーのドレスをさりげなく可愛らしく仕上げてくれてる、
スカート丈がアンバランスなドレス。


肩に掛けれるようになっているオーガンジーを取り除くと、一気に大人の装い感が強く出るシンプルなドレス。



シンプルで嫌みがないのに、惹きつけてしまう存在感のあるドレス。
それがKiryuブランド。



何……、意表を突かれたような好みのデザインのドレスが紙袋から出てきて驚きながら、
アタシは着物を次々、床に落として、用意されたドレスへと身に着けた。

着物用のメイクと髪型じゃ、せっかくのドレスも何処か残念な感じに見えてしまう。


慌てて髪だけでも鏡の前で手直しをして、
アタシは、三杉さんの待つ部屋へと続くドアを開けた。



「如月さん、こちらのお茶とケーキを支度してあります。
どうぞ」


そう促すと、ゆっくりとテーブルへと辿り着くタイミングで、
椅子をひいて、アタシをまたエスコートするように着座させる。



三杉さんはデスクの上にある電話を持ち上げて何処かへと電話すると、
すぐにホテルのスタッフらしき人が部屋を訪ねてきて、アタシの着物たちを抱えて出て行った。




「さぁ、此処に居るのはこれで俺たちだけになった。
 まずはお茶をどうぞ。

 緊張してる?」


優雅にティーカップを口元に運ぶ仕草。
気遣う様な仕草を見せながら、何処か挑戦的な三杉さん。


そんな三杉さんから気が付いたら、視線が外せなくなっていた。



「緊張なんてしてないわよ。
 
 えっと……まずは、このドレス。
 有難うございます。

 このドレスは、後でクリーニングしてお返ししますね」

「構わないよ。
 そのドレスは、今、如月さんの為に買い求めたものだ。

 持っていて構わないよ」


えっ?

今、どの口が言ったの?


アタシの為に買い求めたですって。
Kiryuブランドがどれほど、根が張るものか雲上人はわかりもしないのね。



溜息を吐き出して、脱力したようにテーブルへと項垂れた。




ダメだ。


そう、雲上人の相手は昔から疲れるものだって、
神前悧羅で散々、学習したじゃない。



気持ちを切り替えよう。


テーブルから上半身を起こすと、並べられてあるティーカップに手を伸ばして、
紅茶を一口飲み干した。


あぁ、香りが良くてホッとするわ。



「気に入って貰えたようで何よりだよ。

 少し落ち着いて貰えたところで、今から、今後の大切な話を始めていいかな?」



今後の大切な話?

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