【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
えっ?
何?
散々、アタシがドジをして見せても、まだ破談にしようとしてない?
そんなことないはずだよね。
三杉さんに結婚を破談された女。
そうなったら、家での風当たりは冷たくなるかもだけど、これ以上、関わることもなくなると思っていたのに……。
そうよ。
破談を申し出るにしても、準備があるから、それを説明しようとしているのかも知れない。
だったら、言いにくいことを相手に言わせるより、アタシが気持ちを察知して話し出さなきゃ。
「えっと、突然の結婚相手がアタシのような存在で、さぞかし驚かれたことでしょう。
覚悟は出来てますので、時間をかけずに破談するよりスパっとどうぞ」
そう言うと、三杉さんは驚いたような表情を浮かべてクスクスと笑い出した。
「如月さんは破談を望まれているみたいですが、
俺たちはそうはなりませんよ。
如月さんも見るところ、あまり家の方との関係が良好といえないように見受けられました。
俺は早く婚約者を見つけて、妻を娶らないと、ビジネスにおいて信用してもらえない。
よって早急にパートナーの存在を探している。
悪い話じゃないだろう?
如月さんは家の柵から解放されて、俺はビジネスでの信用を得ることが出来る」
突然の言葉に、呆れてモノが言えなくてフリーズするアタシ。
「俺からの条件としては多くのことは要求しない。
1つ、俺からの電話には出ること。
1つ、俺がパーティーに出る時は、妻としての務めを果たすこと。
1つ、夕飯は自宅で一緒に取ること。
後は、如月の自由だ。
友達と遊ぶのも、何処かへ出掛けるのも、束縛はしない。
悪い条件じゃないだろう?
俺と契約しないか?」
三杉さんの囁きが何故か悪魔の囁きみたいに聞こえて、
アタシは、気が付いたら頷いていた。
アタシはレプリカのアタシ。
今のアタシは抜け殻じゃなければいけないの。
自分に暗示をかけるように言い聞かせて、
アタシは、三杉さんとの結婚に同意した。
「決まったね。
ならば、今日から一緒に暮らそう」
突然の言葉にも動じないように言い聞かせて静かに頷く。
時間が来てアタシたちは最初の部屋へと戻る。
「只今戻りました」
そう言って最初に部屋に入り、両家の関係者の前で、静かに正座する三杉さん。