【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

1.誰もいなくなった箱庭 - 如月 -



「如月、今日少し出かけない?」

アタシの部屋に転がり込んでいるのは、
社会人になってからの友達、早川澪(はやかわ れい)。


澪の声にアタシは、怠い体をベッドから起こしてゆっくりと立ち上がった。


アタシは、蒔田如月(まきた きさらぎ)。
現在、フリーターとして派遣の仕事で生計を立てながら、
少し前まで、大好きな音楽で成功したくて路上演奏とかしながら過ごしてた。


それも半年前までの事。
今のアタシは、ある事情で夢を追い続けられなくなった。


唯一の居場所だったんだ。
どんなに強がっていても、アイツの傍だけは過ごしやすかった。



カーテンを勢いよく開けた窓から差し込む光は、
タバコの吸い殻、缶ビールやワインの空き瓶が転がって散らかった部屋を映し出す。

散らかった部屋の片隅には、壁に立てかけられたアコースティックギター。



澪は、ずっと夜の間使っていたソファーベッドからクタクタのルームウェアを着たまんま、
立ち上がると壁際のギターを手に取って弦を弾いた。

緩んだ弦は曇った音を告げる。

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