【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
そんなビジョンを思い描いていたのに、
あの瞬間に、あっけなく消えた。
信号待ちをしていた交差点。
突然に起きた悲劇は暴走車の侵入によって、そんな未来は消え失せた。
「光輝っ」
耳に付く真梛斗の言葉と共に、俺の体は突き飛ばされた。
倒れた体を起こしたその時には、隣で笑ってたアイツの姿は何処にもなくて、
脳震盪を起こしている頭を押さえながら、キョロキョロと視線をさ迷わせると、
その事故の惨劇が飛び込んできた。
真梛斗が倒れていた周囲は、おびただしい血の海が出来ていた。
慌ててアイツの傍に駆け寄ると、アイツはまだ意識があった。
時折、苦痛の表情を浮かばせながら、俺の方を見つめた。
そして託されたものが……今、俺の目の前にあるピアス。
アイツは俺がそのピアスを手にすると、
ふーっと意識を閉ざして、救急車で搬送された後も病院で目覚めることなく旅立った。
なぁ、真梛斗。
こんな気持ちになるんだったら、
あの時、堂々とお前と同じフィールドに立てば良かった。
あの日、亡くなったのがお前じゃなくて……俺のままだったら……、
今頃、アイツはこんなに寂しそうな顔をしなくて済んだのかもしれない。
同じフィールドに立つことすら拒否した俺の心には、
今も罪悪感という名の刺青が消えない。
消えない刺青は今も俺に鈍い痛みを与え続ける。