【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

7.消せない刺青 - 如月 -



この家で暮らすようになって、
アタシは久しぶりに『ぬくもり』に触れた。


幼い頃から学院の寮暮らしで家族の中からは、
疎外感が強かったアタシには、
ばーばが亡くなったあの日から、心の拠り所に出来る場所なんてなかった。


TVを付けてニュースを見れば、学校の虐め問題や、無差別殺人。
殺伐とした出来事が次々とキャスターによって告げられていく。




今の学校問題は……。

最近の若い子たちは……。

私たちの時代は……。





キャスターやコメンテイターが言いたいことを言いたい放題告げる様を見ている間に、
社会についての思うこと、アタシを取り巻く環境についての思うこと、アタシのストレートな思い、恋愛観、価値観。


そんなものを文字の羅列で辿りながら、アコースティックギターで拙いコードを押さえながら、
歌い始めたのがきっかけだった。


ギター教室なんて行ってない。
大きな音で演奏するなんて出来ない。

コードを覚えるのは、ネット社会で溢れまわっている沢山の動画たち。


パソコンモニターに映し出した動画を見つめながら、
時折コードの指使い、弦の位置を一つ一つ、落書きノートに拾い出しながらひっそりと続けた。




そうやって一人、独学で積み重ねたアタシの自己表現の手段。

口下手なアタシも、人の心を読解するのが苦手なアタシも、
音楽と歌詞を通してだったら、誰かを傷つけることなく自分を曝け出せると思った。



学院内で生活している時は寮でのルームメイトにばれてしまって、
学校側が知るとことなり、実際に芸能界で音楽活動を在学中からしている生徒も多いためか、
練習するなら防音設備が整った場所でやりなさいっと、寮母であるメイトロンから連絡が入った教師によって告げられた。



それ故に、学院祭りでは何度かステージで歌うようになったものの、
学院時代はそれ以上でも、それ以下でもなく、ただ自分を保つために歌ってた。


学院を卒業した後は、アパートで独り暮らしを始めた。

壁が薄い、そのアパートではギターを奏でながら歌うことなんて出来ななくて、
アタシの発散の場は、高架下とか、公園とか、そんな場所が中心になった。


そんな時、澪と出逢ったんだ。
澪は毎日のように高架下か公園かアタシを探しては姿を見せた。

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