【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~


一枚目のデザインは、ウエスト部分より少し高めの位置で切り替えがあり、
裾にいくにつれて広がっていくAラインドレス。
縦のラインが強調されているように感じる。


二枚目のデザインは、ジャストウエスト部分で切り替えがあって、
スカート部分は大きく広がっている華やかなデザインのプリンセスドレス。


ババアが一番惹かれている様子。


三枚目のドレスは、人魚と例えられるタイプ。
上半身はボディラインにぴったりとフィットして、
膝下あたりから裾が尾ひれのようにフレアスカートになっている。


四枚目のデザインは、体型に自信がないと難しそうな、
全体的にボディーラインにそった細身のシルエットが特徴。


五枚目のデザインは、胸下の高めの位置で切り替えがあって、
スカート部分が長く見える直線的なラインが特徴。


どれも素敵なドレスだけど、アタシには驚きばかりで即答できない。


「如月さんはお気に召したドレスはあったかしら?
 姫龍さんにね、一通りのデザインでお願いしてみたの。


 ウエディングドレスの代表的な形で、
 一枚目はAライン。クラシカルで上品な印象ね。

 二枚目はプリスセスライン。華やかで可愛らしい印象になるわ。

 三枚目はマーメイドライン。大人っぽくてセクシーな印象になるのかしら。

 四枚目はスレンダーライン。一枚目同様にクラシカルで上品な印象ね。
 私はガーデンウェディングに憧れていたから、こちらのタイプにしたのよ。

 五枚目はエンパイアラインと言うの。
 古代ギリシャの女神の服がモデルとなって広がった、
 年代を問わずして好まれるクラシカルロマンスで気品を感じられるのが特徴かしら」



アイツのお母さんは一つ一つ、アタシにじっくりと見せながら紹介してくれる。


スレンダーラインとエンパイアって言うんだ。
ドレスって言えば、Aラインとプリンセスとマーメイドくらいしか知らなかった。

アタシが悧羅の行事の時に着ていたのは、Aラインが多かったんだよねー。
だったら、やっぱりAライン?



「まぁまぁ、奥様。如月さんの為に、
 こんな素敵なドレスを姫龍さんに依頼してくださってたなんて。
 如月さん、ドレスはこちらがいいですわ。

 三杉家との結婚式ともなれば会場も広くなりますわ。
 
 花嫁は華やかでゴージャスな衣装が一番。
 遠くの席のお客様にも、しっかりと見ていただけますもの」


凝りもせずにまだ、自分を主張し続けるババア。


そんなババアの態度に不愉快さを感じたのか、
アタシが不愉快に思っているのを察してくれたのか、
突然、隣のアイツがゆっくりと時計に視線をむけて立ち上がった。


「せっかくのドレスデザインを見ながら積もる話もあるとは思いますが、
 結婚式場の下見の打ち合わせ時間が近づいています。

 打ち合わせの前に、市役所に婚姻届を提出してから参りますので、今日は失礼します。

 母さん、ドレスのデザイン、一綺にメールで添付してもらって如月と話をしてまた連絡するよ。

 じゃあ、如月、お暇しようか」


そう言って、アイツはアタシをエスコートして、
両家の親にお辞儀をしながら部屋から連れ出してくれた。



「光輝坊ちゃん、如月さま。
 新田が外で待機しております」

「有難う。村城【むらき】」


アイツがそう言ったことで、初めてこの執事の名前が村城だと言うことを知った。

「有難うございます。村城さん」

「いいえ、如月さま。
 あっ、もう私も光輝坊ちゃまと言うわけにはまいりませんね。
 若旦那さまと、若奥様でしょうか……。

 この度は、おめでとうございます。
 さて、行ってらっしゃいませ」


そう言ってゴーストに乗り込むアタシたちを見送ってくれた。

ゴーストの後部座席に乗り込んだとたん、
アタシは隣にいるアイツを強く意識してしまう。


アイツの手がアタシの髪に触れているから。


こうして触れる仕草もアイツと真梛斗がアタシの中でリンクして、痛みと共に思い出が蘇る。


目を閉じて、もっと触れて欲しいと望みたくなるアタシ。
これ以上、アタシを惑わせないでと拒絶したくなるアタシ。

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