【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
順番に一つ一つ高村に案内してもらうものの、
如月は何処か上の空で……。
そんな如月の表情を見ては真梛斗を思い出しているのだと感じる。
そして……今も、如月の心をとらえて離さない親友に、
少し嫉妬を覚えてしまう。
「それでは。
本日はお忙しい中、有難うございます。
結婚式に良い日取りを、まだ後日ご提案させていただきます」
高村に見送られてホテルのエントランスまで出ると、
聖仁が車をまわして待機していた。
「お帰りなさいませ」
後部座席のドアを開けて、
俺たちが乗り込むと聖仁はドアを閉めて静かに走り出した。
「如月さん、今日はお付き合いくださいまして有難うございます。
思い出に残る結婚式にしましょう。
俺に出来ることは精一杯させて頂きます。
もう少しお付き合いいただいていいですか?」
如月にそう切り出すと、
聖仁が向かってくれている手配していたお店へと向かった。
そのお店で予約済みのフルコースを食べ終えたころ、
俺のスマホが着信を告げる。
如月に断りをいれて対応に出ると仕事のトラブルが発生していた。
現在、後継者を決める竣佑との審査の中で、
評価に大きくかかわる事業トラブルだった。
手配していた海外工場が社会情勢の悪化によりデモに巻き込まれ、
工場が閉鎖を余儀なくされているというものだった。
このままでも納期にも影響が出てくる。
「如月さん、申し訳ありませんが呼び出しが入り、俺は今から会社に戻ります。
聖仁、俺を会社に送り届けた後、如月さんをマンションへ送り届けて戻ってきてくれ」
二人で肩を並べて座る車内。
如月も俺も会話らしい会話がないまま、車は本社の建物へと滑り込んだ。
早々にドアを開けて車から降りると、聖仁に「頼む」とだけ告げて、
自分のデスクへと向かい、ただひたすらにモニターと向かい続ける時間が始まった。
同時に、その支社の担当者へと連絡してより深い情報を入手する。
こんな時に、真梛斗が傍にいてくれたら……。
ふと俺の中の弱さが表へと零れ落ちる。
アイツが居てくれたら、
俺が気に掛けながらも後まわしにしてしまっていたこともフォローして先に手を講じてくれる。
如月のことを言えないな……。
ふと溜息をついて、モニターから視線を上げアイツがいつも座っていた空白のデスクを見つめる。
『光輝、お前は次の仕事にかかれよ。
こっちは、任せろって』
そう言いながら何度もピンチをチャンスに変えてくれた真梛斗。
そんな俺のビジネスパ―トナー、
真梛斗はもう居ないのだと感じた途端に俺の中に孤独が広がっていく。