【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
11.果てない混沌の海 - 如月 -
「お帰りなさいませ。
お嬢様。
あっ、もう私の大切なお嬢様だけではありませんね。
奥様になられたのですものね。
謹んで寿ぎ申し上げます。
旦那様より急な出張が入った旨伺っております。
今日は私がこちらにおりましょうか?」
三橋がアタシを家に迎え入れて声をかける。
「大丈夫。
アタシも、もう大人だよ。
ずっと夜が怖くて泣いてたアタシじゃないんだから」
「いいえっ。三橋にとってはお嬢様は今も昔も大切な方ですよ。
お小さい時に、寂しいのに夜が怖いのに強がって、
その弱さをお見せにならなかったお嬢様を三橋は知っていますよ。
今もお嬢様は、あの頃のようなお顔をなさっています。
三橋は今の旦那様とお嬢様が心から結ばれて欲しいと思います。
ですがお嬢様に思う方がおられて、その方との幸せを考えていらっしゃるのでしたら、
三橋はお嬢様のお味方ですよ」
そう言った三橋の言葉が少し嬉しかった。
「大丈夫。
心配には及ばないわ。
この家で一緒にアタシと居たら、三橋は仕事になっちゃうわよ。
また明日の朝、来てちょうだい。
今日はお疲れ様でした。
おやすみなさい」
アタシの言葉に三橋は「お休みなさいませ。奥様」と挨拶をして、
マンションから出て行った。
ガチャリとドアの鍵がかけられた音が静かに部屋へと響く。
一人になったと思ったとたんに、時計の秒針が凄く大きく聞こえるのはどうしてなんだろう。
アタシは自分の部屋に戻って、身に着けていたワンピースを脱ぐと、
クローゼットの中からルームウェアを取り出して身に着けた。
ベッドの傍、床に腰かけて窓からイルミネーションが眩しい都会の夜空を見つめる。
入籍。
そして結婚式の下見。
本当に楽しくて嬉しい時間のはずなのに、どうしてアタシは素直に喜べないんだろう。
真梛斗が居なくなってずっと寂しかったアタシの心に、
寄り添うようにやってきたアイツがいる。
正直、入籍した後も、結婚式場の下見をしていた時も、
お義母さんがウェディングドレスのデザインを依頼してくれた時も、アタシは嬉しさを覚えてた。