【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
だけど同時に、もう一人のアタシが、はしゃぎたくなるアタシを制御するんだ。
自分自身でもどうしていいかわからなくなるアタシ自身に蓋をするように、
アタシは自分のシャッターを静かに閉ざす。
ノイズのない世界は、真梛斗との思い出だけに包まれているから。
だけど今まではそうやってうまくコントロール出来てた時間が、
アイツと暮らすようになって崩れ落ちていく感じがする。
真梛斗が居れば大丈夫でしょ?
アタシは寂しくないじゃない。
真梛斗はちゃんと今もアタシを愛してくれている。
アタシの記憶の中の真梛斗は、
ちゃんとアタシに愛をくれる人だから。
何度も何度も言い聞かせてみるものの、
アタシの中にひっそりと開いた穴は一向にふさがる気配がない。
さっきもそう。
アイツが仕事に行くって車の中で決まった瞬間、
寂しさがアタシの中で生まれた。
だけどアタシは何も言えずにアイツを送り出した。
男にとって仕事は忙しいし大切なのは十分承知してるつもり。
だから別にアイツが居なくても平気だって思ってた。
だけど何?
今のこの無様なアタシ。
こんなに弱り切ったアタシ。
アタシが許せない。
「行かないで」って素直にアイツに伝えられたら、
アタシは今より強くなれたの?
それとも今以上に弱くなったのかな?
答えなんて何度見つけようとしてもわからない。
だけどアイツにアタシの真実を葛藤も含めて告白するというなら、
それはアタシの中の真梛斗の存在をアイツと共有することになる。
でもアタシはそれが怖いんだ。
真梛斗の存在をアイツと共有することで、
アタシの中から真梛斗が消えてしまいそうで怖い。
ぐるぐる考える思考は出口の見えないループにはまり込む。
するとアタシのスマホが見慣れた名前を示す。
澪。
その名前を見ても、今日は電話に出る気力がなかった。
今のアタシは澪たちが知ってる本当のアタシじゃない。
慣れない生活で疲れてるんだよ。
自己暗示をかけるように、
自分に言い聞かせながらそのまま体育座りに変えて項垂れた。