【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
そのままの体制で少し眠ってしまっていたみたいだった。
気が付いた時には明け方になっていた。
マナーモードにしていたスマホが、
点滅をして通知が入っていることを知らせる。
手を伸ばして開くと、そこにはアイツから連絡が入ってた。
☆
如月さん
もう眠っている頃かもしれませんね。
起こしてしまったらすいません。
会社のトラブルの関係で今は日本を離れています。
仕事が終わり次第、すぐに戻ります。
光輝
☆
ただそれだけの短い連絡。
そんな連絡ですら、真梛斗を思い出させる。
☆
体に気を付けてくださいね。
如月
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可愛げのない短い文章を既読がわりに送り返すと、
アタシはゆっくりと自分の部屋から出てキッチンへと向かった。
アイツと暮らすようになってから味を覚えたハーブティー。
ハーブなんて歯磨き粉の味と思ってたアタシが、
歯磨き粉の味をさせていたのはハーブの中のミントという種類で、
アタシにも飲めるハーブティーがあることを知った。
三橋の存在か、はたまたアイツの存在か知らないけど、
アタシが飲めるハーブの種類が増えた。
パントリーからラベンダーを取り出すと瓶の中から、
ティースプーン一杯をティーポットに注いでお湯を注ぐ。
待っている抽出時間に、ラベンダーの香りが広がっていく。
ボーっとしながら、ダイニングの椅子に腰かけてテーブルに
肘をついたまま抽出を待ち続ける。
少し鬱々していた気分が穏やかになっていく。
抽出時間が終わった後も、暫くの間は香りを楽しんで飲み始めた。
飲み始めたころには、かなり明るさが広がり始めた。
さて、今日も一日頑張らないと。
アイツが居ないなら、昨日連絡があったことだし、澪と遊ぶのもいいかなー?
おばちゃんとおじちゃんにも久しぶりに会いたいなぁーっと、
お世話になってた居酒屋を思い出す。
結婚式、おじちゃんとおばちゃんも招待したら来てくれるかなー。
なんてそんなことを思い浮かべた瞬間、
アタシの理性はまたその感情をシャットダウンしてしまった。
ラベンダーティーを飲み干してしまっても、
今度は心が晴れることなくて、次の気分転換に思いついたのは入浴。
ティーカップを流しへと運んで、
さっとスポンジで洗い終わると食器洗い機へと片付けて、
着替えを準備して浴室へと向かった。
服を脱いで浴槽へと体を沈めた後、
そのままお湯の中まで顔を沈めていく。
ブクブクと息をするたびに、上に向かって伸びているであろう水泡。
息苦しくなったところで、お湯の中から顔を上げて、顔の水分を手で拭った。
無意識に手を伸ばすのは、真梛斗から貰った片側のピアス。
今のアタシが唯一、真梛斗と物質的に繋がっているもの。