【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

13.微睡の夢 - 如月 -


『ねぇ、きさ。起きて……』

懐かしい声が何処からともなく響いてくる。
真梛斗……。



ずっと逢いたかった温盛に触れたくて、
ゆっくりと手を伸ばす。




だけど真っ暗な世界でどれだけ手を伸ばしても、
真梛斗に触れることは出来ない。



真梛斗、何処?


ずっとアンタを探してた。
アンタはいきなりアタシの前から姿を消した。


アタシの中には、アンタの思い出が沢山詰まってた。
アンタと出逢って、アタシの人生は変わったよ。


ずっと何につけても諦めてた。


神前悧羅学院。

有名な学校で、その学校を出たものは大きな絆で結ばれて、
その時に出来た友情関係は将来大きく役に立つパイプラインになる。


そんな風に言われてて、
世間では【神前悧羅】を出たって言うだけで大きなステータスになる。


だけどアタシにとっての神前悧羅は、
自分の居場所を失わせた空間。


神前悧羅に入学して寮生活を余儀なくされたアタシは、
星奈と陽奈の傍にずっと居て妹たちと一緒に生活することが出来なかった。


だから双子の妹たちが生まれた後の家族は、
アタシの家族であってアタシの知らない家族。


久しぶりに帰った自宅。
電話や手紙で知らされてた星奈と陽奈の成長の速さ。



人見知りが始まったって、
情報では知っていたのに……久しぶりに帰宅して、
二人を抱き上げようとして泣かれたのはショックだった。



あの全力で嫌がってアタシを拒絶しようとするように聞こえた泣き声は、
今もアタシの脳裏にこびりついて離れない。


二人を見るたびにあの日の拒絶する声が甦って、
心が冷たくなっていく。



これ以上、心が冷えていくのが耐えられなくて、
アタシは家から距離を置いた。

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