【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~


如月が望む世界。
それを俺は一番傍で、応援しながら見守っていきたい。



翌日の午後、如月は退院許可が下りた。

三橋が準備してきてくれた着替えに袖をとおし、
数週間ぶりに外の空気に触れる。


「退院おめでとうございます」


そう言って看護師さんたちから手渡された花束を、
如月は嬉しそうに受け取った。


大夢さんと会ってからこっち、如月の笑顔が増えてきた感じがする。

前みたいに、
生き急いでるような息苦しさを傍にいても感じさせない。


「奥様、退院おめでとうございます」

病院のエントランスに姿を見せた新田。


「三橋、俺は如月と少し寄り道をして帰りたい。
 車は新田に手配させている。

 後に来る車で、一足先にマンションへお願いします。
 俺たちが戻るまで、客人のおもてなしを」

「かしこまりました。
 旦那様。いってらっしゃいませ」


三橋は深くお辞儀をして、
病院のロータリーで俺たちを見送る。


聖仁の運転する車は、静かに目的にへと向かい始めた。


「ねぇ、光輝。
 何処に行ってるの?」

「今日は俺自身のケジメをつけにね。

 その場所には、如月にも居て欲しい。
 今は、黙って付き添って貰っていいかな」


そう続けた俺は、如月は首を縦にふった。
聖仁が運転する車はまっすぐと、ある場所を目指す。


「光輝様、後10分ほどで先方に到着いたします」
「有難う」



聖仁の声を受けながら、
通いなれた道程が今はこんなにも緊張する。

車の速度が緩まった時、
俺たちの目の前には洋風の大きな門が姿を見せた。


その門を潜った先に聳える高層マンション。


そのマンションの入り口には、
住居者の苗字が綴られた表札が飾られている。


AMAGI


マンションに入るエントランス前の、
セキュリティーゲートサイドのプレートに刻まれた名前。



「えっ?
 天城?って、ここは真梛斗の家?

 えっ、ちょっと待って。
 光輝がどうして、知ってるの?

 あれ?あっ、でも確か……先生が、
 真梛斗と光輝がどうとかって、あの日話してた」



車の中で、動揺を始める如月。

車は門を通過して、
マンションのロータリーで静かに停車した。


そこには、先に連絡をしていたセキュリティーゲートから出て、
天城夫妻が俺たちを迎え入れてくれた。



「いらっしゃい。お待ちしていました」


静かに会釈する天城に続いて
「ご無沙汰しております。光輝様。お初にお目にかかります。奥様」
っと夫人が言葉を紡ぐ。



二人に案内されるようにマンションの中へと入ると、
エントランスを抜けて、エレベーターで上へとあがっていく。

そして真梛斗の実家の玄関ポーチを開いて、室内へと足を踏み入れた。

そのまま、俺たちは真梛斗が眠る仏壇へと歩んでいく。

「……真梛斗……」

突然の出来事に、仏壇の前で膝から崩れるように座り込んだ如月は、
『やっと逢えたね……』っと泣きながら言葉を続けた。



如月の隣で俺も静かに手を合わせた後、
肩をふるわせるその体を包むようにそっと手を回す。


仏壇の前からゆっくりと立ち上がらせると、
案内された応接室のソファーへと腰かけた。



「おじさん、おばさん。
 こちらが、旧姓・蒔田如月さん。

 今は入籍して、俺の奥さんって形になってますが、
 真梛斗と俺が、思いあって競い合ってた女性です。

 如月、こちらのお二人が、真梛斗のご両親だよ」


そう言って、如月に二人を紹介した。

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