【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

「初めまして。如月さん。
 真梛斗の父です」

「真梛斗の母です」


そう言って自己紹介した、
目の前の存在に驚いたように如月は俺を見つめた。


おじさんとおばさんと共に、少しの間、真梛斗に関する昔語りをした後、
今度は聖仁の車で、アイツのお墓へと向かう。


お寺の住職に挨拶を済ませて、綺麗に区画された霊園を歩いて、
天城家のお墓へと向かう。


その墓標に記された真梛斗の名前に、
如月は指先で触れながら『……バカ……』っと小さく呟いた。



その声は、悲痛を感じさせるものではなくて、
何処か温盛を感じさせる暖かい二文字。



「真梛斗と俺は、ずっと兄弟みたいに育ったんだ。
 さっき出逢った真梛斗の親父さんは、父の側近でさ。

 小さい時からずっと一緒だった。

 俺には双子の弟、竣佑がいるけど、弟は昂燿校だろ。

 だから兄弟って言っても一緒に居ることの方が少なくてさ、
 同じ悧羅校ってこともあって、真梛斗と兄弟みたいに過ごすことの方が多かったんだ。

 そんなある日、俺たちは如月を見つけたんだ。
 退屈そうに学院内を歩いてた。

 最初は、俺たちが楽しくてたまらないこの学院で、
 生徒総会として、ここに通う生徒たちの幸せを目指していろいろと頑張る中で、
 退屈そうに過ごしてる如月に単純に興味を持ったんだ。

 何日も何日も、遠巻きに如月の行動を見てた。

 そんな時、屋上で絞り出すように、
 何かを叫ぶようにアコースティックギターをかき鳴らしながら歌う如月を見つけた。

 心が鷲掴みされるようだった」




そう。


あの日、あの瞬間に俺と真梛斗は恋に落ちた。
二人、同じ人に恋をした。


だけど真梛斗が凄いのは傍にいる俺が一番知ってる。

どれだけ、周囲の人間が俺をもてはやしても、
その背後には、真梛斗の完璧なサポートが存在していることを、
俺が一番よく知ってた。


だから、如月が真梛斗を選ぶであろうことも想像はついて……、
俺は逃げるように、家を理由に、その心を閉じ込めようとした。



そんな俺に気が付きながら、
ずっとずっとアイツは俺が同じ土俵にあがるのを待っていてくれた。


そして、あの日……俺を守って、他の命も守って、一人で旅立った。




落ち葉もない、草一本も生えていない、綺麗に清掃されたお墓。
持ってきていた花をさし、線香と蝋燭を付けた俺たちは、その正面にゆっくりと腰を下ろす。


如月が手を合わせている隣、俺はどうやって……事故の話を切り出そうか迷ってた。


ずっと手を合わせていた如月が立ち上がった時、
俺も続けるように隣で立ち上がった。



「事故が起こったあの日、真梛斗の隣には俺が居たんだ……」


目を背けたくなるような現実。
震えそうになる声。
すでに震え続けている体。

握り拳を右手で作って、
その右手の握り拳を包み込むように左の掌をお腹の前でくっつける。


「如月がいつも歌ってたあの交差点に、あの日、車が突っ込んできた。
 クラクションが鳴り続け次々と交差点を歩く人たちの悲鳴が響いた。

 俺も轢かれるって思った瞬間、俺の体は突き飛ばされた。


 起き上がった時には、アイツは血を流して倒れてた。
 そして、そのまま目覚めなかった……」


そう……。


あの日、真梛斗が俺を突き飛ばさなかったら……。
そんな罪悪感は今も俺自身から消えない。


自分自身を倒れないように、支えるたびに、
爪を立てるようにして耐えていた俺の両手を、
ふと、柔らかい暖かいぬくもりが触れた。



「光輝、もういいから。
 アタシ、夢の中で真梛斗とあってたんだ。

 真梛斗がさ、遠い未来のその時は、アタシと光輝を迎えに行くってさ。
 だからそれまでは、幸せにって笑ってた。

 ずっと、どうして真梛斗は光輝を知ってるんだろうって思ってたけど、
 訳を聞いて腑に落ちた。


 有難う。
 ここに連れてきてくれて。

 また、時々でいいからこの場所に来てもいい?
 真梛斗の実家はちょっと行きづらいけど、ここだったらアタシだけでも来やすいから」


そう言って俺に笑いかける如月に、


「何度でも来たらいいよ。
 一人で行きたくなったときはそういって。

 そうじゃないときは俺も一緒に行くから」


そう笑い返した。
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