【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
神前悧羅学院悧羅校 蒔田如月さんのあゆみ。
そう記された分厚いアルバム。
そこには入学して間がない、
アタシの両手と両足のスタンプ。
そして初めて書いた字。初めて描いた絵。
イベントイベントの節目を閉じ込めた写真がちりばめられていた。
「うわぁ、懐かしいですわ」
「って言うか、お前たち、どこの学校だよ。こんな……。
ひらっひらのドレス着て、踊ってる学校が何処にあるんだよ」
そう言いながら、アルバムを覗き込んで絶句する澪に、
『えっ、此処に』っと美織とアタシは声をそろえて即答する。
そんなアタシたちに、
「ありえねぇー」っと言いながら、呆れた様子の澪。
するとそのアルバムの中に、しっかりと映ってる二人。
そこにはアタシの方に視線を向けてる?
真梛斗と光輝の姿も切り取られてた。
「まぁ、如月。ご存じで?」
美織もすぐに気が付いて、私に笑いかける。
ねぇ、凄く馬鹿だねー。
アタシ、今更に気が付くんだ。
こんなにも傍にいてくれたのにね。
そう思うと、何故か頬に暖かいものが伝い落ちる。
慌てて触れると、指先が涙の雫で濡れた。
「えっ?どうしたの?」
今も気が付かない澪が、仲間に入りたそうにせっつく。
「こちらに。ほらっ」
「あっ、何……今の旦那と、真梛斗さん?」
澪の言葉にアタシはゆっくりと頷いた。
「ふーん。
前から出逢ってたんだ」
澪はそう言ってアタシに笑いかけた。
片付けが中断してしまっていたけど、再び荷造りを始めたアタシ。
10時を過ぎた頃、三橋がアパートへと顔を出した。
10時のおやつの差し入れと共に。
そして皆で賑やかにおやつを楽しんだ後、
三橋と共にやってきた運転手が、車へと段ボールを少し運び入れる。
「今日は有難う」
「またいつでも声をかけてくださいね。
結婚式のお支度、楽しんできてね」
「また」
そんな感じで、二人に見送られて三橋と共に車に乗り込むとアタシはマンションへと戻った。
マンションに戻ると、三橋は張り切ってクローゼットの中から衣装を取り出してくる。
そして迎えの時間。
現地合流だと思っていたのに、アタシの前に光輝は現れた。
「如月、準備は出来た?」
その問いに静かに頷くと、光輝はアタシの手をエスコートするようにそっと触れる。
そしてそのまま一階へと誘導され、新田さんが待っている車へとエスコートされた。
ホテルに移動すると、前回の様に支配人の北村さんが出迎えてくれて、
アタシの退院への快気祝いを気遣ってくれる。
そしてそのままブライダル部門へと案内された。
ブライダル部門に到着したアタシたちの前には、
同じく前回も担当となったウェディングプランナーの高村さんが姿を見せて、
北村さんと同じようにアタシの退院を祝ってくれた。
そして高村さんは言葉を続ける。
「若奥様の表情も、あの頃と違って輝いて見えますね。
旦那様に支えられて、胸のつかえは取りされたようにお見受けします」
っと、嬉しそうに微笑んでくれた。
そう、アタシ自身もこんなにも心が揺さぶられている現実に驚いてる。
今、高村さんと打ち合わせているこの場所も、
大きな天井と真っ青な空のグラデーションが綺麗で……。
永遠の愛を誓いあう、真っ赤な絨毯が敷かれたバージンロード。
そんな場所に居るだけで、ドキドキしてるアタシ自身。