【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
「それでは、結婚式のお日取りですが、
最短でと言うことですので11月にお日にちを押さえてございます。
花嫁様の緊急入院も重なってお日にちが1か月をきっておりますが、
いかがいたしましょうか?」
高村さんの言葉にアタシは絶句して、
光輝の方に視線を向ける。
「こちらの会場にはご迷惑をおかけしますが予定通り結婚式は11月で。
披露宴はビジネス規模のものになりますので、
来年、時間をあけて出来れば思っています」
「そのように承っておりますのでご安心ください。
それでは、来月に迫りました結婚式について、
再度、ご説明申し上げて宜しいでしょうか?」
そう言って高村さんは、
ゆっくりと資料を机に広げながらわかりやすいように説明してくれた。
まずは結婚式の挙式スタイル。
披露宴は、会社規模で大掛かりなものになるためアタシの思い通りには出来ない。
だからこそ、身内で楽しむ結婚式は、アタシの思うスタイルにしていいと言う光輝の意見だった。
だけどアタシだけで決めるなんて、絶対嫌。
今のアタシは流されるんじゃなくて、隣にいる光輝とちゃんと一緒に歩いていきたいって思えるから。
そんなアタシは光輝にある提案をする。
やりたい結婚式スタイル。
二人して、そのスタイルを紙に書き出して一斉にテーブルの上でひっくり返す。
そうやって決まったアタシたちの結婚スタイルは、
今居る、この部屋のチャペルで行う教会スタイルと言われるものだった。
二人、同時にめくって同じスタイルが記されているのを見て、ホッとしているアタシが居る。
「まぁ、本当に仲が宜しいお二人ですわね」なんて、
高村さんが言葉を続ける。
教会スタイルにスムーズにまとまったことにホッとしながら、
これで二人が別々のスタイルを書いていたら今頃どうなってたんだろうなんて、
振り返って、真っ青になる。
あんなにも遠かった「結婚式」と言う行事が、
今はこんなにも近いものになってるアタシ自身。
「ウェディングドレスですが教会スタイルで参りますと、
やはりロングトレーンのドレスは優雅で生えますね。
当ホテルでは、花嫁様のドレスのデザインを考慮致しまして、
祭壇の高さを調節することも出来ますよ」
そう言いながら、Kiryuさんの最初のデザイン画だけではイメージ出来なかった部分を、
CGを合成しながらわかりやすく教えてくれた。
この会場の教会スタイルの会場で、
ラフ画で起こされたKiryuデザインのドレスを着用した場合、
どんなふうに第三者の目に映るのかをイメージさせてもらえる。
そう言って、全てのデザインのイラストを見せてもらったアタシたちに、
高村さんは決断を迫る。
「昔話になりますが、結婚式のウェディングドレスにおけるロングトレーンの長さは、
花嫁様のステータスによって長さが違っていたと伝えられています。
ロングトレーンの歴史は長く、時は12世紀へと遡ります。
トレーンが長ければ長いほど歩きづらいとは思いますが、
そのドレスの重さを乗り越えて、エレガントにその裾を捌いて歩くのが女性のエレガントとされていた時代。
そんな名残を受けてか、かのイギリスのダイアナ妃のお式では、
8メートルのロングトレーン。史上最長と言われております」
そう言って高村さんは、いろんなエピソードを混ぜ込んで寄り添うように話をしてくれる。
そんな時、アタシたちが打ち合わせをしているその場所に来客が登場した。
隣に座っていた光輝が驚いたように、
その登場人物に気が付いて、学院の作法にのっとって立ち上がって膝を折る。
そんな光輝の態度に、慌ててアタシも立ち上がると、
同じように不慣れな形で膝をおった。
そんな二人にを見つめて「よいよい。気を楽になされよ」っと声をかけるその人。
自身がデザインした着物を雅に着こなしたその人は、綾音姫龍。
真黒な髪を姫カットに仕上げて、
独特な勇ましいオーラ―を感じさせる現代の大和撫子。
「これは、綾音さま。
わざわざのお運び、感謝いたします」
そう言って、高村さんも深くお辞儀をする。