【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
「光輝、こちらが奥方の如月殿かえ?」
「はいっ。
妻の如月でございます」
「学院の生徒であったならば、私を知らぬものはおらぬと思うが、
今日は一デザイナーとしてご挨拶申し上げる。
お初にお目にかかる。
此度、そなたのウェディングドレスのデザインを手掛けることとなった綾音姫龍と申します」
そう言うと、光輝が隣で、「一綺の母親だよ」っと小さく続けた。
「如月殿のことは、宗成殿からもうかがっておる。
大変であったな。
ですが、それらの試練を乗り越えての挙式。
私も精一杯、協力させていただく。
では……」っと、アタシたちの輪の中に率先して入り込んできた姫龍さんは、
ロングトレーンの話題などから、状況を把握して、自らのデザインしたラフ画に、
その場で思い浮かんだイメージを書き加えていく。
あっと言う間に目の前でデザインを完成させたアタシのドレスは、
シンプルなAラインをベースしながらも、
美しく後ろは曲線を描きながら長いトレーンが続いている。
そのままデザインが完成すると、そのまま奥の部屋に連れ込まれて、
いくつもの持ち込まれた布地をあてて行く果てしない作業が続く。
同じようにうつる布地も、光沢や刺繍、模様、手触りが全く異なって、
その違いが面白くなる。
基本となるドレスの布地が決まったら、
今度は、重ねていくレース地を何種類もの中から選んでいく。
そして仮縫い作業と言われるものが終わった頃には、日が暮れようとしていた。
「さて、如月殿。お時間を取らせてすまない。
後は、挙式までにこのドレスを仕上げてみせましょうぞ」
そう言ってアタシに笑いかける。
その後も、ドレスにあわせる装飾品のデザインが続いて、
光輝が着用するタキシードの話へと続いた。
姫龍さんが部屋を退室した後も、
今度は招待状の準備へとやることは沢山。
だけど今はその時間が、とてもあたたかく、
そして小さな眩暈すらおぼえる。
目まぐるしい時間の一瞬一瞬が、
今はこんなにも愛おしく感じて……。
濃厚すぎる一日が終わって、打ち合わせを終えてその部屋を後にしたころには、
心地よすぎる疲労感が包み込む。
「さて、ご飯を食べて帰ろう」
そのまま光輝が連れて行ったのは、
何時の間にか手配されていた、そのホテルの高級フレンチのお店。
そこで出されるままに、コース料理を食べ終えて、
日付が変わりそうになるころ、マンションへと辿り着いた。
部屋にはもう、三橋の姿もなくて、
アタシが出掛けて居る間に、
アパートから持ち帰った段ボールの中身を片付けてくれていた。
少しずつ部屋らしくなるアタシの空間。
部屋でワンピースを脱いで、
ルームウェアに着替えると、そのままリビングへと顔を出した。
そこにはスーツ姿から、
ラフ着に着替えた光輝が、ウトウトして眠りについていた。
そんな光輝の傍に腰を下ろして覗き込むと、
彼はいたずらっ子のような瞳をして、
目を開けるとアタシに今朝のように口づけを降らせる。
何度も何度も、降らせ続けるその口づけに、
アタシ自身が、彼の今以上の温盛を求めたいと、
蕾が蜜を溢れさせていく。