【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
18.自由になれ - 光輝 -
退院した後の如月は、
挙式まで一か月を切ってしまった結婚式の準備に忙しかった。
俺も時間を作っては、
一緒に打ち合わせに出掛けるなどの行動はしていたけど、
それは男と女で感覚が違う。
ほらっ、招待者へと一言メッセージカードだ、
パーティーの席で流すBGMの手配だと準備に忙しいみたいだった。
それに加えて、ブライダルエステに忙しい。
ただでさえ忙しい日々の中で、
結婚式当日と披露宴の時にのみ着用すると思っていたタキシードも、
なんと別の日に(前撮り)と言う形で、
事前撮影の為に本物さながらに着用。
カメラマンに促されるままに幸せな風景を切り取っていく。
そんな行事の合間に、
アパートにいっては荷物を運び、引き払う手配を進める。
何度も手伝おうとしたものの、
「これはアタシのケジメだから」っと却下されて、
如月を手伝う間もなく、時間が過ぎていく。
如月のアパートの荷物の引っ越しが無事に終わった頃からは、
今度は両家の親睦を深める食事会をこまめにするようになった。
そしてもう一つ、大きな変化があったことと言えば、
毎週、両親の屋敷で行われている親族会議と言う名の朝食会に、
如月も一緒に妻として参加するようになったこと。
当初、俺がお願いしたように、
完璧に俺の妻であろうとしてくれる如月。
その行いは、俺にとってすごく嬉しいものではあるけれど、
如月の翼を、俺が切り落としてしまっているような錯覚が付きまとう。
以前に比べて、確かに如月の笑顔は増えた。
だけど……俺には、
彼女がまだ何か大切なものを諦めようとしているみたいに映った。
昔の如月が持っていて、今の如月にないもの。
それは……俺と真梛斗が出会ったきっかけになった、如月の歌。
如月は俺がマンションに居ない間に、
何度か、相棒のギターに触れている姿を三橋は目撃していた。
だけど、誰かが部屋に入ろうとすると、
すぐに演奏をやめてしまうのだと言う。
一緒に暮らすようになってから、
如月が一度としてギターに触れることなどなかったのだから、
その行動を知って俺が嬉しくないはずはない。
なのに如月は、
どうして俺の前では演奏してくれないんだ?
俺は如月にとって、
何かの足枷をしてしまっているのだろうか?