【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

部屋に入っていい?って言うことだろう。

「どうぞ」


如月に声をかけると、
笑みを浮かべたアイツはドアを開けて俺の部屋へと足を踏み入れた。


初めて入った俺の部屋。
飾られてある、真梛斗の写真に視線を向ける。


 「あっ、真梛斗だ……。
  入学式……ちっちゃーい」

そう言いながら写真へと手を伸ばす。


ジャケットを脱いで、
ネクタイを抜き取ると、シャツのボタンを幾つか外して、

「なんだったら、アルバムでも見るか?」っと、

クローゼットに片付けてある、
分厚いアルバムをアイツの前に出した。



「うわぁ、一緒だー」


そう言いながら、アルバムの最初のページにある、
入学当初の両手足のスタンプを見つめる。


「そりゃ、同じ学校なんだから一緒だろ」


そんな些細な話をしながら、
次から次へとアルバムをめくっていく如月。


「ホント、真梛斗と光輝って、
 兄弟みたいに一緒に居るねー」

そう言いながら、笑ってた。


そしてめくられたアルバムは、
学院祭の如月が全校生徒とゲストの前で歌ってる写真へと繋がっていく。



 「うわぁ、勘弁してよー。

 こんな写真まで後生大事に持っちゃってさ」


そう言いながら、
如月は何処か嬉しそうな声で……。


そんな如月を見つめながら、
今しかないっと思って俺自身を奮い立だした。



「如月、三橋に聞いて知ってる。
 
 如月が今、時々、俺に隠れてギターを奏でてること。

 ずっと、どうして隠れてこそこそやってるんだろうって
 今日まで思ってた。

 だけど竣佑に指摘されて、ようやく気が付けた。

 如月は自由だよ。
 三杉の家に嫁いではいるけど、三杉の家に縛られなくていい。
 
 そりゃ、奥さんとしての役目は最初話したみたいに勤めて欲しいと思うけど、
 俺は如月の歌が大好きだから……。

 歌うのをやめようって、思わなくてもいい。

 俺の妻が、ストリートミュージシャンで何処が悪い?
 かっこいいじゃん。

 あそこで演奏してるのが、俺の奥さんだよって、
 俺は堂々と宣言できる。

 だから、自由になれ。
 如月も、広い世界に飛び出していいんだよ。

 俺は閉じ込めたりなんてしない。
 その大海【たいかい】に、俺自身も一緒に飛び出していくから」




そう……。

俺も一緒に、
大きく羽ばたこうとする君の隣で守り続けるから。  



そう言った俺の言葉に、如月は凄く驚いた顔を見せた。



「お二人とも、そろそろ夕飯をお召し上がりになりませんか?

 今日は、奥様がビーフシチューを作りたいと仰せになりまして、
 三橋がお教えいたしました」


そんな言葉に、
俺は慌てて如月に視線を向ける。

よく見てみると、
指先にはいくつかのバンドエイドが巻かれている。


「如月……」

「大丈夫。

 ちゃんと頑張ったから、
 シチューの中にはアタシの皮も血も入ってないと思うから」


そう言って笑いかける。

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