【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
えっ?
今、皮とか血とか……。
その言葉に、
料理を作りながら彼女が指を深く傷つけたことを想像する。
そんな風になってまで、俺の為にご飯を作りたいと思ってくれた、
そんな彼女が愛おしくて……。
その日、俺は如月が作ってくれたビーフシチューを堪能した。
時々、繋がってる野菜が姿を見せたけど、
それはご愛敬だろう。
夕食の後、三橋が洗い物をする音を聞きながら、
俺はリクエストする。
「如月、ギターを奏でてよ。
そして歌えそうなら、俺の為に何か歌って。
心配しなくても、この家は防音室になってるから。
如月がどれだけギターを鳴らして歌っても、
近所迷惑にはならないよ。
一緒に生活するのがわかったその日、
ちゃんと防音室になるようにリフォームしてもらったから」
そう言って、種明かし。
「嘘っ……。
そんなのアタシ、何も聞いてないんだから。
遠慮気に音出して、
こそこそしてたアタシがバカみたいじゃん」
そんな憎まれ口を叩きながら、
怒ってないのは表情を見てたら伝わってくる。
「如月、歌ってよ。
ほら、俺の隣に座ってさ」
そう言って俺は如月を隣に呼びよせるように、
トントンとカーペットを指先で叩いた。
ようやく観念したかのように、
自分の部屋にギターを取りに行った如月は、
アコースティックギターを構えて俺の隣に座り込んだ。
そうして静かに、心地よい音色を奏でていく。
そんな音色に重なるように、
アイツの歌声がゆっくりとあわさった。
昔の魂を削るような歌い方じゃなくて、
今は俺を包みこむように歌う声。
そんな声に満たされながら、
俺はゆったりとしたひと時を過ごした。