【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
「旧子爵家の血を持つ、蒔田家のご令嬢。
蒔田如月さんだ。
先日、蒔田の会長とお会いした際にな縁談を相談されてな。
すでに由毅には櫻柳家のご令嬢との縁談を進めておる。
晃介にも、どうやら想う人が居るらしくな……」
そう言って祖父はテーブルの上へと写真を広げた。
写真の中には王道と言えるような古典柄の振袖に袖を通して、
微笑む写真。
その存在が、俺の記憶に残る女性だと知る。
「兄さん……この子、真梛斗の?」
竣佑が紡いだ名前は、うちの会社で働く父の秘書の息子。
天城真梛斗、俺たちと同級生。
年も近く学校も同じだった頃から、
俺や竣佑にとっては、兄弟に近いように過ごしてきた存在。
その真梛斗はこの春、交通事故でなくなった。
ブレーキとアクセルを踏み間違えた車が、
真梛斗たち歩行者が多くいる場所へと突っ込んできた。
真梛斗は傍に居た俺を突き飛ばし、近くの親子連れの子供を守って旅立った。
そんな真梛斗が愛した存在。
それが彼女、蒔田如月の存在。
ただし写真の中の彼女には、真梛斗から聞かされた彼女らしさは何処にも感じられない。
「竣佑……今回の話、俺が受けてもいいかな?」
俺の言葉に、祖父や父がゆっくりと視線を合わせる。
「オレは別に構わないよ。
むしろ兄さんが受けてくれる方が助かる」
そう言って竣佑は微笑んだ。
「光輝、本当にいいのか?
蒔田家に連絡をしていいか?」
「えぇ、お祖父さま。
俺がこの話、受けますよ。
それで今後、俺はどうしたらいいですか?」
そう言いながら、スーツの内側からスマホを取り出す。
スケジュールアプリを立ち上げて、
順番に予定を確認していく。
「俺の事情で申し訳ないですが、
今週は予定が詰まってます。急ですが、明日なんてどうでしょうか?
明日は午後から予定がキャンセルになって時間が作れそうです」
「わかった。
今、蒔田さんへ連絡してみよう」
祖父はその場で告げると父の秘書である天城がすぐさま、電話を用意して祖父の元へと運ぶ。