【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
特に車に執着があったわけじゃない。
「周囲に運転してくれるやつらが居るから」
「じゃあ、これからも運転免許は持たない主義?」
「そうだなー。
今まで以上に持つ必要はなくなったかな。
如月のナビシートがあれば」
そう言い切った俺に如月は笑ってた。
「光輝ってホント、時折、えって言うこと言うよねー。
男だったら好きな女をナビシートに乗っけて……っとか、
思わないの?」
そう問いかける如月に
「えっ、そうなの?」っと言葉を返す。
だったら……俺も、
教習所に通って免許をとるかぁー。
流されるように予定を組み替えてた間に、
「大丈夫。
アタシはそんな一般的な夢は持ってないから。
アタシは自分の運転するナビシートに、
旦那様を乗せるのが夢なんだから」
そう言って俺を見ながらケタケタと笑った。
そんな俺たちをバックミラー越しに見ながら、
聖仁が必死に笑いをこらえているのが視界に映る。
こうやって笑顔が増えていくのも悪くない。
車は結婚式当日に最初に行きたかった、
真梛斗が眠る霊園の駐車場へと停車した。
車を降りた先には見慣れた一綺の車が駐車されている。
俺たちはすぐに車を降りてその場所へと向かう。
そこには一綺や裕真も姿を見せていて、
俺たちを迎え入れてくれた。
「裕真、久しぶり。
帰ってきてくれたんだ」
「まぁね。
お前の結婚式に帰ってこないはずないだろ」
「一綺、良くわかったな」
「まぁね。
天城ほどじゃないけど、おれたちもお前とは付き合い長いんだよ。
蝋燭と線香は準備しておいたよ。
おれたちは先にお参りしたから、
後は光輝と如月さんの番だよ」
そう言って正面を譲ってくれる。
秋の風が時折、吹き抜ける空の下、
俺と如月は真梛斗に結婚する報告をした。
「祝福してくれるかな?」
「アイツだったら、祝福してくれるはずだよ。
世話焼きなやつだったから」
そんな俺たちを遠巻きに見ていた聖仁の「お時間です」の声で、
慌てて車へと戻ると、今度はホテルへと車を走らせた。
エントランスに一歩踏み入れた途端から、
ホテル関係者からのお祝いの言葉が続き高村さんの所へ辿り着くまでにも時間がかかった。
ようやく高村さんと合流した後は、挙式リハーサル。
立ち位置などを含めた一連の流れのリハーサルがあり、
その後は慌ただしくヘアメイクと着替えがはじまった。
挙式開始の四時間前にホテルに入ったというのに、
時間がいくらあっても足りないほど、当日はバタバタしていた。