もしも君が
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「また席替え運なさすぎ!何この席!」
黒板に貼られた座席表を見てうなだれる友達。
「言うて私茉冬の斜め前だよ?」
「え、彗うちの斜め前なの?ならいいや席替え最高!」
私 高野 彗は友達の茉冬とハイタッチをし、机の荷物を整理して新しい席に向かう。
もうこの学校に入学して2年目に突入した。
友達もたくさん出来たし、勉強もそこそこ頑張っているつもり。
部活はしてないけど授業後はアルバイト漬けの毎日。
すごく充実していると思うし満足している。
「彗、教科書多くない?もしや置き勉か?」
時折落としそうになる両手いっぱいに抱えた教科書を見て友達の真宙が笑った。
「バレちゃった?持って帰るの大変なんだもん」
私は教科書を机に置いて席に着く。
窓側から2番目の1番後ろの席だ。
あたりの席だ!
風通しも良く、先生からも見えにくい、この席ならよく寝れる!そう思いながら私は小さくガッツポーズをした。
「ちょっと彗!左!左!ひーだーり!」
興奮した様子で真宙が私の肩を叩いて耳打ちをしてくる。
私はまひろに背を向け左を見た。
それはもう一瞬のことだった
本当に一瞬のことだった
その一瞬で動悸が激しくなるのが嫌というほど分かった
心臓がうるさい
顔が火照る
上手く言葉が出てこない
「何してんの彗、話しかけなよ、よろしくーって」
ニヤニヤして真宙は左を向いたまま固まる私をつつく。
あぁ、私はいつもそうだ。
彼を見ると上手く話せないし上手く笑えない。
おはよう!よろしく!仲良くしてね!
言いたいことはたくさんあるのにいつも彼の前だと何も話せなくなる。
いや、なんとなく彼から出るオーラが話しかけにくい雰囲気を作っているのだと思う。
きっと、いや絶対これは話しかけない言い訳にしか聞こえないのだろうけど。
「ったくほんとに好きだねぇ彗は朝井のこと。」
やれやれ、可愛いやつだなんて言って自分の席に戻っていく真宙。
「高野なんでずっと颯一見てんの?あ、好きなの?」
硬直する私に朝井 颯一の後ろの席に座る飯田 涼太郎が言った。
「えっ、そ、んなわけないじゃん?ねぇ?」
飯田に図星を指されて息が止まりかけた。
真宙の彼氏なだけあって飯田はいつも私に朝井君ネタをふっかけてくる。
飯田のいじりを苦し紛れに否定したものの、肝心の朝井君は興味なさげにケータイを見ている。
隣の席だねー!よろしくー!
右隣の女の子には言えるのに、大好きな朝井君には言えない自分がチキンすぎて情けない。
「恋する乙女は可愛いでちゅねぇ!」
「うるさいわ飯田!」
あぁ可愛くない...
眠たそうに欠伸をする朝井君を横目に私は深くため息をついた。