ディモルフォセカの涙

「どうかな?」

「そっちの色も似合ってる」

「じゃあ、次は……」


 実花さんのファッションショーに付き合う私に、聞こえた声。


「この服、私にはちょっと小さめ

 ユウ、これ、着て見て」

「えっ⁉」

「いいからいいから」


 手渡された洋服を着ることを躊躇する私へと伸びる、実花さんの指先。


「自分で……」


 私は今着ている洋服を脱いで、ブラ付きタンクトップの上から渡されたブラウスを羽織る。袖に手を通そうとしたが、パフスリーブの袖口は絞ってあって手を通しづらくて。----すると、実花さんの指が袖口のボタンを外してくれた。


「ありがとう」


 袖に手を通したころ、ブラウスのボタンを下から順番にひとつずつかける手が見えた。私の胸元に止まる手、短くカットされた爪には赤いネイル。----ドキドキする私の胸。

 私は今、昔大好きだったあの着せ替え人形みたいに、主人が選んだ服を着せてもらう。


「ユウに、ぴったり
 似合ってる

 これ、ユウにあげる
 あっ、色違いのこれも」

「えっ、いいよ、そんなの悪い
 わたし、買う……」

「バカッ
 
 私が着れなくて要らない服を
 無理やりあげるのに、それを
 買ってどうするの」

「でも、いいの?」

「いいよ

 それから、もうひとつ」


 そう言うと実花さんは、紙のショップバックの中からビニールのショップバックを取り出して私に差し出した。
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