ディモルフォセカの涙

窮屈なドレス

----私は今日も、ユウとして生きる。


「ユウさん、入ります」----そう、ここは、とあるTV局のスタジオ。年始の特別番組収録の為に、私はいつも以上に着飾った姿でこれから撮影に入る。

 体のラインにぴったりと沿って作られた窮屈なドレス、背中は大きく開いたデザイン。

 観ているだけならばとても素敵なドレスで、一度は着てみたいと思えるデザインだけれど、ギターを弾きながら歌う私には不釣り合い。

 ギターストラップが、直に肌に触れて食い込む。

 まだ気心の知れないスタッフと共に仕事をする私は、とても嫌だとは口にできず……

「大丈夫ですから」と言われても、肩の生地がずり落ちてしまわないかとても気になる。自分の背丈よりも長いスカートの裾も気にかかる。洋服に気を取られた私は案の定、何度と演奏ミスをしてしまう。

 年末で慌ただしい日々を送る疲労困憊の人々の中から、「演奏下手だね」「頼むからこれ以上(収録)押さないでよ」「当て振りでいいよ」等とひそひそと話す声がこちら側まで聞こえてくる。

「誰、あの衣装用意したのはっ!」----マネージャーの声に焦った衣装担当のスタッフが安全ピンを持って私の元に駆けて来て、今から裾を上げると言う。
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